2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2016年3月31日

外相ポストが第一に選ばれた理由

 旧テインセイン時代より閣僚ポストが半減されたなか(計18人)、彼女は外務大臣、大統領府大臣、教育大臣、電力・エネルギー大臣の4つのポストを兼任することになった。この4ポストを選んだ理由は何か。

 現憲法下では、警察権力を司る内務大臣、軍の代表である国防大臣、少数民族問題をはじめとする治安維持と密接に関連する国境担当大臣の3つの最重要ポストは、大統領ではなく国軍司令官に指名権がある。いくらNLD中心の内閣を大統領が組閣しても、この3人の大臣は軍から合法的に天下ってくる。この3ポストを通じて軍が内閣を「監視」することが可能となっているのである。そうなると、「大統領の上に立つ」と宣言したアウンサンスーチーとしては、これら3つのポストに次ぐ重要閣僚に就いて大統領をコントロールし、かつ軍との交渉を日常的におこなう必要性が生じる。

 そこで彼女は外相ポストを第一に選んだ。その理由としては、国際社会の表舞台に随時姿をあらわすことによって、ミャンマーのイメージアップを図れるのみならず、重要国との外交交渉を一貫性のもとに推し進めることができるということが考えられよう。しかし、それ以上に決定的に重要な理由がある。

 それは外相が国防治安評議会の数少ない文民メンバーの一員を担っているからということである。国防治安評議会は事実上「内閣の中の内閣」とみなされる重要な会議で、閣僚からこの評議会に入れるポストは、軍が指名する前述の3ポストを除けば外相しかいない。定数11のうち軍側が過半数の6を占めるこの評議会を、アウンサンスーチーは不利を承知で国軍側との憲法改正などをめぐる重要事項の交渉舞台として選び、そのために外相ポストを選択したのだとみなせる。

4つの大臣を兼務する目的と意味は

 大統領府大臣との兼務は、自らが制度的にティンチョー新大統領のそばにいることによって、日常的に彼と接触し、指示やアドヴァイスを与えやすいためだといえる。旧テインセイン政権では複数任命されていたポストであるが、それを1名に限定して自ら就任したのは、アウンサンスーチーだけが大統領の真横に位置することができるよう制度的に工夫したものだと考えられる。

 3つ目の兼務ポストとして教育相を選んだのは、「教育改革なくして自国の未来なし」と考える彼女らしい選択といえる。彼女にとって自国の長期的改革の原点は、停滞し遅れてしまっているミャンマーの教育の現状を大きく変えることにある。経済発展であれ、政治の民主化推進であれ、少数民族問題や宗教問題の解決であれ、この国が直面する中長期の難題は、すべて次世代の国民の能力育成にかかっており、教育が欠陥だらけなままであれば、中途半端な成果しか生み出せないと彼女は考える。だからこそ、自らが先頭に立って改革を推し進めるべく、このポストに就いたのだといえる。加えて、軍の教育への介入を極力抑えるためにも自らが教育大臣に就くのが最善だと判断した面も見落とせない。

 4つ目の兼任ポストである電力・エネルギー大臣の選択は、やや意外に映る。だが、これは中国の存在を考慮しての選択であると考えればわかりやすい。すなわち、最長の国境線を接する中国との関係において、最もセンシティヴなイシューである電力・エネルギーに関する事柄を、彼女が直接的に取り扱いたい意向があるということなのである。

 たとえば、環境破壊をもたらすとして前政権期にテインセイン大統領の独断で工事が中断されたカチン州にあるミッソン・ダムは、その後、中国側が工事再開をねばり強く働きかけている。これに対し、彼女は大統領による「つるの一声」式の非民主的なやり方ではなく、専門家から成る委員会による客観的な検証を加えた上で、最終判断を下したい意向を有している(2013年4月の来日時の発言から)。

 中国との関係で争点化する問題の中心が今後も資源やエネルギーの開発と輸出になることは避けがたく、そこに責任的に関わることの意思表示が、このポストの兼務にはうかがわれる。

 ちなみに、新内閣への与党NLDからの入閣は、アウンサンスーチーを含め6人にとどまり、ほかは民間の専門家や旧与党USDP(連邦団結発展党)関係者が入って、挙国一致内閣の様相を見せている。この方針は昨年11月の総選挙勝利後からアウンサンスーチーが公言してきたことである。彼女は当選したNLD議員に「大臣になれる」などとは考えるなという主旨のスピーチを重ね、能力本位でNLD外からも積極的に閣僚を任命することを明らかにしてきた。その「公約」が実現されたものが今回の閣僚の布陣なのである。


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