オバマ米大統領は20日にサウジアラビアを訪問し、サルマン国王と会談した。両国関係はイランの核合意やシリア内戦などをめぐって緊張しているが、サウジは米議会が米同時テロ「9・11」の関与疑惑を追及しようとしていることに反発、米国内にある数千億ドルの保有資産を売却するなどと“恫喝”しており、この裏の問題が首脳会談の最大の懸案だ。
ホワイトハウスへの密使
米紙などによると、このサウジの警告を密使として米側に伝えたのがジュベイル外相だ。外相は3月にひそかに訪米し、ホワイトハウス高官と一部連邦議員らと会談。米議会が9・11に関して、サウジ当局者らの責任を問うことを可能にする法案を成立させるなら、サウジが米国内に保有する財務省証券など7500億ドルに上る巨額の資産を安く売り払う、と伝えた。
このサウジの脅しともとれる通告にオバマ大統領の懸念は深まった。実際にサウジが巨額の財務省証券を売り払うことは技術的にも難しい上、世界の株式市場や為替市場を大混乱に陥れ、米ドルに連動しているサウジ・リアル相場も不安定化、「自分で自分の首を締めてしまう」(米専門家)恐れが強い。
このためサウジの主張は“口先だけの脅し”とも言えなくはないが、オバマ大統領は今回のサウジ訪問で、特にイランの核合意で高まっているサウジの対米不信を解消しようとしていただけに新たな難題に苦慮、議会側に法案を通過させないよう圧力を掛けた。
この法案は上院に上程され、1月にすでに司法委員会を通過した。法案の内容は、外国政府ないし当局者らが米領土へのテロ攻撃に加担した疑いがある場合には、訴追されないという「免責特権」をはく奪する例外規定を設けるというのが骨子。法案は一般的な文言になっているが、サウジ当局者が9・11に加担したという疑惑を狙い撃ちしているのは公然とした事実だ。
仮に上下両院で可決され、大統領が署名すれば、法案が成立し、サウジ当局者への訴追の道が開かれる。そうなれば、米国内の法廷がサウジ当局者の引き渡しを要求し、拒否した場合にはサウジの在米資産を凍結する決定を下しかねない。これがサウジの最も懸念している点だ。
しかし、現実的には法案の発効はほとんどない。なぜならオバマ大統領は、こうした法案が通れば、外国も報復措置として同じ法律を作り、結果として米市民のリスクを高めてしまうとして、法案には拒否権を発動して発効を阻止する考えだからだ。