エコノミスト誌は英国のみならず、英語圏において多くの読者を持つ有力なメディアです。同誌が英国のEU離脱をどう論評するかは注目に値します。
エコノミスト誌はずっと英国のEU離脱には反対してきました。この論説は離脱が国民投票で決まった後、驚きと今後の影響への憂慮を表明しています。的を射た良い論説です。
今回の英国の離脱は、EUと英国の分裂にとどまらず、英国内での世代間、地域間、階層間の分裂を深め、EU内での反EU運動に勢いを与えかねません。英国とEUは大打撃を受けたと言えます。
離脱キャンペーンを主導したボリス・ジョンソンは、離脱を急がない、リスボン条約50条(離脱に関する規定)は提起する必要はないなど、理解しにくいことを言っていますが、離脱がもたらす悪影響、自らの運動がもたらした結果におののいているようにさえ見えます。離脱を支持した国民の中にも、自らの投票を悔いている人も多いと報じられています。EU側は、英国に早急に離脱手続きを進めるように要求していますが、英国の外務大臣は、離脱手続きをいつから始めるかは英国が決定できることであると反論しています。法律論を言えば、英国政府の主張に理がありますが、政治的には通りにくい議論です。
思慮が浅かったキャメロン
今回、キャメロン首相が英国のEU離脱を国民投票にかけたことは、思慮が浅かったと言わざるを得ません。国家の重大事について、実質的な決断はせず、問題を国民投票に委ねると言う手続きだけを決めると言うのは、要するに問題を国民に丸投げすることであり、指導者として無責任です。そのうえ、最後は残留を強く訴えましたが、英国はEU外でもやっていけると過去に発言したこともあります。
2014年のスコットランド独立の住民投票も、国のあり方を国の一部の住民投票で決めようとするもので、民主的でも何でもありません。ウクライナ憲法は、クリミアだけの住民投票でクリミアが独立することを違法としていますし、スペインも、カタルーニャ独立をその住民投票で決めるのは違法であるとしています。今回の件で、キャメロンは首相を辞任しましたが、当然のことでしょう。
英国のEU離脱問題は、今後とも経済面、政治面で大きな影響を与えていくでしょうが、その被害を限定的に抑えるということを念頭に置いた対処法が重要でしょう。
なお、離脱に決まったのは、移民問題の影響が大きいとこの論説は述べていますが、必ずしもそうではないかもしれません。人は、自分の運命は自分で決めたいと言う願望を持っています。EU離脱は主権を回復することになるとの宣伝の効果が大きかったとも考えられます。英国独立党のファラージ党首は6月24日を独立記念日と言いましたが、英国は植民地ではありません。独立記念日というより、連合王国崩壊の始まりの日である可能性もあるのです。