米ハドソン研究所上席研究員のハダッドとソバーンが、6月9日付ウォールストリート・ジャーナル紙に、「ロシア制裁は未だ解除するな。クレムリンの金融に対する措置は、ウクライナについての交渉努力を強化しうる」との論説を寄せ、制裁解除論をけん制しています。論旨、次の通り。
ロシアの制裁解除は誤り
EUによる対ロシア制裁は、2014年7月の導入後、6カ月ごとに更新されてきた。しかし、いくつかの国が制裁廃止を主張している。
しかし、制裁解除は誤りである。まだモスクワと通常のビジネスに戻る時期ではない。制裁解除は欧州の弱さと分裂の危険なシグナルを送ることになる。
マレーシア航空17便の撃墜の後、導入されたエネルギー、防衛、金融分野への制裁が更新対象になっている。2015年のミンスクII合意のロシアによる履行が解除の条件になっている。キエフも義務を果たしていないが、モスクワの違反の方がひどい。ウクライナの東部国境はロシアの支援する戦闘員の支配下にあり、ロシア軍はウクライナ領土におり、合意に反して重火器が使われている。
ヨーロッパはウクライナ人パイロット、サフチェンコの釈放のようなプーチンの「善意のジェスチャー」に惑わされるべきではない。現場の状況はほとんど進展していないのに、ロシアは関係を元に戻したいために、こういうことをしている。
制裁は効果がある。石油価格下落もあり、2015年、ロシアのGDPは推定マイナス3.8%になった。外国投資の減少も効いている。この経済困難がミンスク交渉にロシアを参加させた。進展もないのに制裁を解除すれば、敵対行為の再開を促す。制裁がヨーロッパ経済に与える悪影響は大きくない。欧州議会の研究では、対ロ貿易の減少はEUのGDPについて、2014年0.3%、2015年0.4%の下押しにはなっている。
ロシアでは、経済と政治は一体であり、経済的結びつきを政治的影響力に変えられるが、ロシアへの投資減少はヨーロッパの外交的自由を増大させる。これは歓迎できる。
ギリシャのチプラス首相のような制裁批判者は、対話こそ前進につながると主張している。西側の指導者はモスクワと対話すべきである。効果的な対話と制裁は相互排除的ではなく、相互補強的である。しかし、現在の状況を作ったのは欧米ではなく、ポスト冷戦の安保秩序を一方的に変え、隣国を侵略したロシアである。それで対話が困難になった。
2年前の全会一致の制裁採用は戦略問題に関する欧州の団結と統一を示した。これを忘れるべきではない。プーチンの強さや戦略的能力を過大評価する傾向がある。しかし、制裁の解除はロシアを利する。西側戦略はこの現実を反映すべきである。
出典:Benjamin Haddad & Hannah Thoburn,‘Don’t Lift Russia’s Sanctions Yet’(Wall Street Journal, June 9, 2016)
http://www.wsj.com/articles/dont-lift-russias-sanctions-yet-1465502724