2024年11月3日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年7月18日

 1972年のニクソン訪中以来、今ほど多くの問題で米中両国が鋭く対立したことはあまりなく、「米中戦略経済対話」でも、協力より競争が勝り、せいぜい事態の悪化を食い止めることぐらいだろうと、6月4-10日号の英エコノミスト誌が述べています。要旨は、以下の通りです。

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露骨になってきた中国の挑戦

 米国主導の世界秩序に対する中国の挑戦は露骨なものになってきた。中でも、南シナ海での人工島造成は、沿岸諸国を揺さぶり、米国の海軍力の優越性の空虚さを露呈させた。米国の力も、中国の建設攻勢は抑止できず、本格的な戦争以外、人工島を解体する、あるいは中国の支配下からもぎ取る術があるとは思えない。そうした中、米中は互いに相手が南シナ海を軍事化したと非難した。さらに、人工島造成の目的は純粋に非軍事的なものだと言ってきた中国国防部は、先月起きた自国戦闘機の米軍偵察機への異常接近事件を利用して、「防衛施設建設の完全な正しさと絶対的必要性」を主張している。

 米国を不安にさせているのは、南シナ海での中国の振る舞いが、あるパターンに合致しているように思えることだ。3月にカーター国防長官は、「海洋においても、サイバー空間においても、グローバル経済においても、中国は他の国々が努力して築いた原則や体制から利益を得てきた」と、歴代の米大統領が言ってきたことを改めて強調した。中国ほど現行の体制の恩恵に与った国はないのに、今や中国は独自のルールに基づいて動き、その結果、「自らを孤立させる長城」を築いていると指摘した。これに対し、中国は、米国も独自のルールで動くと反論。中国外務省の報道官は、カーターは「冷戦時代」に留まっており、米国防省は中国をハリウッド映画の悪役の固定イメージで見ていると非難した。

 実際、カーターが示唆したように、米中が反目しているのは、海洋での冒険主義だけではない。両国の間では従来からの不和が拡大する一方、新たな不和も生じている。例えば、米国の指導者にとり、中国が反政府派への弾圧を強める中で、人権派ロビイストの主張を無視するのは難しい。経済界も中国のサイバー・スパイ行為や知的財産の窃盗、米中投資協定の協議の行き詰まり、そして、中国の経済政策が開放よりも自給自足と保護主義に向かっていることに不満を抱いている。鉄鋼等の中国製造業の過剰生産能力が貿易摩擦を生み、米大統領選で反中演説を煽っていることもマイナスに働いている。

 かつては、多くの分野で対立していても、米中関係は非常に複雑かつ重層的なので、そこには必ず双方の利益になる分野があり、緊張緩和に繋がると言われていた。現在両国の関係がこれほど緊張している理由の一つは、そうした分野がほとんどないことにある。今最も有望なのは、クリーンエネルギーとCO2排出制限の推進であり、北朝鮮問題でも米中は協力している。しかし、後者について、中国は核よりも、制裁の実施で金政権が倒れることをより懸念しているのではないかとの疑念は拭えない。

 戦略経済対話の成果に懐疑的になる最後の理由は、両国首脳の政治的事情だ。本来、「戦略経済対話」は官僚の協議の場だが、習近平はいくつもの党小委員会の委員長となって自らに権限を集中し、官僚は脇に追いやられている。そのため北京で米国は不適切な相手と協議することになる可能性がある。一方、米国では、オバマ政権は終わろうとしている。中国は南シナ海で強硬な行動に出るに際し、オバマの慎重な外交姿勢を考慮に入れていた可能性がある。トランプの下であろうと、クリントンの下であろうと、米国はオバマ政権の時ほど柔でなくなると中国が見ているのは間違いない。

出 典:Economist ‘Dialogue of the deaf’ (June 4-10, 2016)
http://www.economist.com/news/asia/21699915-china-and-america-continue-talk-past-each-other-asia-frets-dialogue-deaf


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