この論説は、EUは欧州合衆国を目指すよりも、より柔軟性のある連合になるべし、そして他の地域での統合の動きに模範を示すべし、と論じたものです。今後のEUのあり方についての一つの考え方でしょう。このようなEUのあり方に関する論は、これからも多く出てくるものと思われます。
この論説は、英国の離脱があまり大きな問題にならないように、EUの方でも柔軟対応をと言うような主張のようにも聞こえます。メルケル首相は「いいとこどり」を英国にはさせないと言っており、離脱交渉はEUの団結維持の観点からもそう簡単には進まないでしょう。特にこの論説は、共通の国境の共同体も参加の可否をメンバー国が自発的に判断しうるようにと主張していますが、離脱交渉での大きな論点、英国はEU市民の移動、居住の自由を認めないで、単一市場へのアクセスが認められるのかについては、問題は残るでしょう。
EU内の亀裂は深刻
EUについては統合の深化が良く言われますが、実際は、EU内の亀裂はかなり深刻です。経済的には南欧と北欧の間に、難民問題では東欧と西欧の間で、民主主義尊重では、東欧と西欧の間で亀裂があります。したがってEUがヨーロッパ合衆国になることはまず不可能でしょう。ここに書かれていることは、そういう意味では、現実的な提案です。
ただ、統合の方向と主権国家の自由尊重は常に対立するものであって、後者に力点を置きすぎると、地域組織は機能不全に陥ります。柔軟性、多様性の尊重と言うだけでは、問題を解決することにはならず、個別の事案の中で、一緒にやること、独自対応に任せることを区分けしていく必要があります。
EUのあり方が他の地域の地域組織に模範となりうるかどうかについては、色々な地域組織には、それなりの歴史があり、やり方が異なります。EUのあり方をASEANや南米の地域組織に移植することは不可能でしょう。EUが地域組織のリーダーになることを目指すよりも、英国の離脱を含むEU自体の問題の適切な処理に注力してもらうことが肝要です。
EU拡大は民主主義の前進として歓迎できるものですが、拡大は分裂の火種を抱えることにもつながります。拡大のスピードについては、加盟の際の審査を厳格にして、特に民主主義の尊重を強い条件にすべきでしょう。
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