WEDGE REPORT

2016年9月27日

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藤 和彦 (ふじ・かずひこ)

経済産業研究所上席研究員

1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

 米国の生産性の上昇率の過去50年間の平均は約2%だが、07年から13年にかけて1・1%に落ち、今年第1四半期は0・6%にまで低下した。全米産業審議会は今年5月「今年の生産性上昇率は過去30年余で初めてマイナスとなる可能性が高い」と予測している。

 また、中国経済についても心配である。今年7月に人民銀行の幹部の口から「中国企業に既に『流動性の罠』の現象が見られる」との発言が飛び出した。銀行がいくらお金を貸そうとしても、企業側にその需要がないという状況を指しているが、バブル崩壊後の日本で何度「流動性の罠」が指摘されたことだろう。空前絶後の過剰投資を行ってきた中国経済のバブルが崩壊すれば、構造調整を終了するまでに数十年はかかるのではないだろうか。

 このように米国と中国という2大原油需要国が構造的な不況に陥れば、「ピークオイル」は一気に現実味を増す。「ピークオイル」論の台頭は原油価格への下押し圧力になるが、これにより湾岸産油国、特にサウジアラビアの財政への懸念はさらに高まるだろう。財政難に陥ったサウジアラビア政府は、今年5月に「大手建設業者に対する支払いに借用証書(IOU)の発行を検討している」との報道が流れた。

 マネーサプライ(M1)が昨年初めに比べて7%も減少するなど、資金の海外流出が止まらず、流動性の危機に陥っていると言っても過言ではない。

ペッグ制廃止目前のサウジ

 サウジアラビア政府は、30年以上にわたって通貨ペッグ制(1ドル=3・75リヤル)を維持している。しかし、外貨準備がピーク時の7370億ドルから既に2000億ドルも減少しており、「虎の子」の外貨準備を確保するため、サウジアラビア政府はドルペッグ制の廃止に追い込まれるという「サウジリスク」への警戒が高まっている。通貨切り下げは原油価格の下落圧力になるとともに、サウジアラビア国内が猛烈な輸入インフレに見舞われるという大きなリスク要因でもある。

 原油価格下落の影響を受けて通貨ペッグ制を廃止したロシアは、当初輸入インフレに苦しんだものの、中央銀行の適切な通貨政策などにより、今年に入ってから徐々に景気回復に向かいつつある。こうしたロシアの状況とサウジアラビアが置かれている状況は好対照である。

 さらに年内に米FRBが利上げを実施すれば、金融商品の色彩を強める原油先物価格へのさらなる下落圧力になる。

 今年の原油価格は供給要因より需要要因などから、昨年と同様年末に向けて1バレル=30ドル台に下落する可能性が高いが、これにサウジリスクとFRBの利上げが加われば原油価格は同20ドル台まで下落するのではないだろうか。

当記事は、2016年9月20日発売の「Wedge」10月号の連載「Global Economy」を加筆したものです。

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