2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年9月26日

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙の8月18日付け社説が、先に行われた中国とASEANによる海洋行動規範に関する会議につき、中国は外交的成功を謳っているものの、合意内容の実現性は低く、関係国は安心すべきではないと警告しています。要旨次の通り。

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名ばかりの行動規範

 仲裁判断から1カ月後、中国は先に行われた南シナ海をめぐるASEAN高官との会議が成功したと謳っている。しかし、その外交的ブレークスルーをよく見てみると、海洋の調和と妥協に繋がる新たな時代に期待する理由はほとんど見当たらないことを示唆している。

 内モンゴルで開催された会議において、中国はASEAN10カ国とともに、海洋の行動規範につき、来年半ばまでに枠組み合意を目指すことで合意した。この行動規範は、14年前に提起されて以降、地域外交の聖杯であり続けてきた。だが、この規範は名ばかりのものになる可能性が高い。

 中国とASEANは、2014年に取り決められた「海洋における偶発的衝突回避プロトコール」(CUES:Code for Unplanned Encounters at Sea)を南シナ海に適用することで合意した。しかし、同年に米中が調印した合意と同じように、この取り決めは海軍にしか適用されず、中国が近隣諸国への嫌がらせに多用している海警や漁船には適用されない。

 中国=ASEAN間の緊急ホットラインに関する新たなガイドラインにも合意する見込みだが、ホットラインが重要と言えるのは、中国がそれにちゃんと応じるようになることが前提だ。2年前、中国はベトナムの領海に石油掘削リグを設置してから1カ月もの間、ベトナムからの呼びかけを無視していた。6月には蔡英文新総裁への不快感を表すシグナルとして、台湾とのコミュニケーションを遮断している。将来、ASEANからの呼びかけに中国がどう応じるかは容易に想像がつく。

 現在、中国=ASEAN間の調整役を担っているのはシンガポールだが、中国の外交副部長は「シンガポールは南シナ海における領有権主張国ではないのだから、介入すべきではない」と述べ、同国を退けようとしている。

 次なる中国の一手は、フィリピンをはじめとする力の劣る近隣海諸国と個別の二国間合意を結ぶことだろう。フィリピンや他の脆弱なASEAN諸国は、雰囲気のよい首脳会談が心地よい新時代の幕開けとなると勘違いしないよう注意する必要がある。まして、米国による安全保障と中国の口約束とを交換してはならない。

出典:‘China’s Maritime Diplomacy’(Wall Street Journal, August 18, 2016)
http://www.wsj.com/articles/chinas-maritime-diplomacy-1471561516


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