2024年6月16日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月18日

 タイの政情の観察には、政治的に分断された社会において対立と暴力を封じ込め、安定性を確保し、経済活動の円滑を期し、なるべく早期に民主主義に回帰するという難題を抱えたタイの事情を理解する必要があります。この観点からは、米国が講じるべき措置として社説の末段が指摘していることは、無用であり不適当です。 

真正な民主主義の憲法ではない

 国民投票で承認された新しい憲法は圧倒的に強力な政党が出現することを阻止し、少なくとも過渡期間の5年は軍の息のかかった政権ないし首相が選任されるようにするなど、色々細工を施した憲法で、真正な民主主義の憲法ではありませんが、これをもって軍が独裁的な政権を掌握し続けることを狙ったものだと断じる必要はありません。王位継承に伴う潜在的に不安定な過渡期を睨み、これを如何に平穏に乗り切るかという考慮が色濃い憲法だとも考えられるでしょう。完全に自由とはいえない環境で行われた国民投票ではありますが、6割の支持を得たことは事実であり、プラユット政権の下における政情の安定に国民が一定の評価を与えていることの反映でしょう。

 タイの立憲君主制はプミポン国王一代の治世の間に形作られたものに他なりません。国王は国の安定の究極の拠り所でした。この立憲君主制の姿が新しい国王に継承されることはありません。国民は国の安定の拠り所を新しい国王に求めることができないことを知っています。一つの時代が終わり、タイは新しい「国のかたち」を模索することとなるでしょう。国の安定は、伝統的な支配層と貧しい農民といった階層間、北部、北東部とバンコクといった地域間など、異なる利害を調整し得る基盤の広い政権を作れるかにかかっているのでしょう。社説にいう「新国王の野心」とはどんなことを想定しているのか判然としませんが、良くも悪くも新国王が内政の重要な核になるようなことはないでしょう。

  
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