世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年12月8日

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 この論説の前半は、オバマ・クリントン批判です。後半で政策の主張を展開していますが、それは三点に要約されます。第一は、外交のために経済を犠牲にすることはしないこと(オバマはTPPを安全保障目的のために利用したと批判)。第二は、海軍など米軍の増強を図ること。第三は、同盟国の経費負担を増やすべく日韓や欧州諸国と協議すること。顧みれば、レーガン時代にも負担分担が大きな問題でした。

 やや安心な点もあります。中国や北朝鮮の問題は基本的に正しく理解されているように見えます。また、日本などアジアでの同盟関係へのトランプのコミットメントに疑いはないと明言しています。トランプ政権の考えもオバマのリバランス政策と基本認識において大きく違わないとも言えます。

米国の国益重視

 しかし、気になる点もあります。「米国の国益」重視が強調されています。偏狭な米国第一主義は問題を引き起こします。国際秩序維持のためには依然として米国の役割が不可欠です。トランプの「世界観」と「米国の世界での役割」の理解が今ひとつ分かりません。政権移行期においてもトランプ側から安心できる「世界観」と基本的な安保外交政策について発信されることが重要であり、政権発足後早期に国家安保方針を発表することが望まれます。

 今後、トランプ側との協議に当たっては次の点を強調することが重要です。

(1)世界の安定のために米国の役割が不可欠であり、それなしでは世界の戦後秩序は崩壊する。米国の孤立主義は見たくないし見る余裕もない。

(2)我々は米国と共に働いていくし役割も果たしていく。日米で意思疎通に齟齬がないように早め早めに協議をしていく。同時に、アジアではASEAN、豪州と一緒にやっていくことが重要。そうしないと中国に分断される。安保、経済双方で皆が協力するマルチラテラリズムが重要(注:トランプにはマルチ思考より二国間思考が強いと言われる。貿易協定についても然り)。

(3)日米同盟関係はアジアの要である。経費分担に関するトランプの主張については、単純比較はできないが米国の同盟国の中で日本は最大の負担をしてきていることを理解してもらい、どうしても見直しが必要というのであれば、双方で先入観を持たないで現状をレビューすることは考えられる。但し今非常に強固である日米安保が不要な議論でガタガタすることは日米双方にとって不利益となる。

(4)アジアの最大の安保問題は中国と北朝鮮である。中国は尖閣に執拗に攻勢を続けている。日本は米国の安保条約上の役割表明を多としている。中国の台頭自体が問題なのではなく、中国とも協力していくが、中国による力の示威を含む振る舞いが問題である。きちっと対応しないとシステム上の問題になる。北朝鮮はクリティカルな段階に至っている。これらのアジアの問題について一方的な行動ではなく日米間の緊密な連携で対処していきたい。

(5)自由貿易なくして日米のダイナミックな経済発展はなかった。保護主義になれば皆が損をする。問題はできる限り国内措置で対処していく方が利益に適う。TPPについては農業など強い国内の反対もあるが国会の審議を進めており、早期成立を目指している。米国でも国内措置により雇用を守りながらTPPなど自由貿易を守っていくことを考えて貰いたい。

 新政権の政策は、主要閣僚等に誰が任命されるかにより大きく影響されます。選挙戦でトランプに反対してきた共和党外交安保エスタブリッシュメントの多くが抜けており、そのためトランプチームは経験不足が指摘されてきましたが、チームが旨く作動し、政策がより現実的になることが期待されます。

  
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