2024年4月23日(火)

対談

2016年12月9日

飯田:AIもまた、現在のパソコンと同じように性能差の問題がなくなってしまうのだとすると、AIで武装して戦う人間同士の優劣はどこで分かれるのでしょうか。

矢野:まず、AIに「何ができて何ができないのか」を理解することが大事ですね。AIは実は驚くほど簡単な仕組みなのですが、われわれの普段の思考法とは別物なんです。

 学校で教わってきた普通の思考法は、方程式のようなモデルを立てて現実を理解するやり方です。池に石をぽちゃんと投げれば波紋が広がる。その条件を仮定し計算することで、波の高さや広がりを予測する。しかしビッグデータやAIは逆の思考法で、波を見て、その背後にどんな方程式があるのかを割り出す、先の言葉でいえばデータドリブンなんです。

 サンプルの大小にかかわらず、見える範囲だけでもモデルを作ってしまえるという思考法で、与えられたものから具体化させていく世界とは逆なんですね。すごく単純ですが、経験すべてから学べるのはパワフルです。

飯田:コンピューターの性能さえよければ線型性がなくても、というか普通は思いつかないような非線形関係でも予測ができる。これは大きいですね。僕らがルーチンプログラムを組んでなるべく広く条件を与えたとしても、しょせんは思いつく範囲でしかない。まったく思いもよらない条件を導入できるのが面白いところですね。

矢野:私たちの研究では、100万個くらいの仮説を日常的に作って、どれが一番重要なのかを見極めてモデルを作るところまでが全自動になっています。全部が自動で回るようになっているので、どんどんデータを入れれば、AIは片っ端からどんどん学習して賢くなっていくんです。

飯田: AIを人間の脳に似せることがひとつの究極の目標なのかと想像するのですが、人間の学習サイクルを機械化して、その部分は人間の外で行って人間にフィードバックするというのはまったく違う世界ですね。SF風に言えば「外部思考装置」を使って仕事をするというイメージでしょうか。

ムードメーカーの役割はますます大きくなる

飯田:人と人とがチームを組んで、AIを活用しながら働いていくために必要な能力もありそうな気がします。チームでやるからこそ必要となるAIの使い方は、どのようなものだとお考えでしょうか。

矢野:それは私たちがここ10年で、最も力を入れているテーマです。人間の場合、利益を目指しつつも、一見、直接は利益に直結しないように見える行動も採らなければいけない場面もあります。特にサービス業やナレッジワーカーでは、そのような場面が多いのです。それらを最適化し、どうやって本人にもチームにも還元するのか。人間には心があり、モチベーションがあり、チームワークもある。ここにAIをどう介在させるのかは一大課題だと思います。


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