トランプは選挙戦中外交政策についてあまり語っていません。政治経験が無いことを考えれば当然ともいえます。その中でアジアについては比較的語っています。一つは日韓の米軍経費負担増で、これはNATOも含めた米国の同盟国一般に対する要求の一環です。もう一つは中国の不公正貿易慣行を是正させるとの発言です。いずれも米国にとっての経済的不公平さの是正を求めるとの発想から来ていて、これだけから見れば、トランプが米国にとっての同盟関係の重要性を理解していないこと、中国に対する戦略的考慮が欠けていることが見て取れます。
トランプが大統領として、どのようなアジア政策を含む外交政策を取るのかは世界の関心事です。外交政策はトランプにとって全体として未知の分野ですから、トランプは自らが指名し、政権の中枢を占めることになる閣僚やアドバイザーの意見に耳を傾けることとなるでしょう。すでにトランプ陣営のアドバイザーを務めるグレイとナヴァロは、上記社説も紹介している通り、アジアでレーガン流の「力による平和」の追求、米国防予算の強制削減廃止、米海軍艦船の増加などに言及しています。これらの点に関する限りは、トランプにはまともなアドバイザーがいるとの印象です。
トランプの「アメリカ第一主義」
しかし、一番の懸念は個々の政策というよりは、トランプの「アメリカ第一主義」という基本的考え方です。これは容易に孤立主義に通じるものであり、もしそうであるとすれば、米国の戦後の基本政策を変えるものです。トランプはまた、米国はもはや「世界の警察官」ではありえないとも言っています。「世界の警察官」論争は、かつて米国の対外コミットメントが米国の国力に比べて多すぎるとの観点(いわゆるオーバーストレッチ論)から行われたことがありますが、もしトランプの発言の趣旨が、米国はもはや世界秩序の維持者の責任は負わないということであれば、米国の外交は大きな岐路に立つことになり、その国際的影響は計り知れません。すでにそのような指摘は見られ、例えば、ミッテラン元大統領のシェルパを務め、欧州復興開発銀行の初代総裁であったジャック・アタリは、トランプの登場で戦後世界の体制は変質すると警鐘を鳴らしています。
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