11月17日にニューヨークで1時間半にわたり行われた安倍・トランプ会談では貿易についても意見交換がなされたものと思われます。上記の社説は、多くの点で説得力があります。トランプ次期大統領にも読んでもらいたいです。
自由貿易をスケープゴートに
同意できないことがあるとすれば、それは、日本や英国との貿易交渉開始宣言を示唆する点です。日米二国間協定では、TPPの半分以下の価値しかありません。社説が述べるアンチ・ダンピング課税かTPPの小幅変更の方がまだマシです。さらにマシなのは、米国が国内措置で対応することです。自由貿易をスケープゴートにしても、米国の問題は基本的に解決されません。トランプを支持した中西部の白人男性達の生活も長期的には向上しないのではないでしょうか。
貿易を二国間で解決しようとか、貿易を単なる相手とのディール・メイキングと捉えるようなトランプ流の思考には懸念を覚えます。二国間解決方式は正に80年代の日米経済関係の思考です。今や世界は複数国間あるいは多国間でルールを作り、協力していくことが不可欠な時代になっています。
TPP問題の落着は、来年1月以降、閣僚が就任し政策を議論できるようになるまで、待つ必要があるかもしれません。日本は、少し息の長い対応が必要かもしれません。その間、トランプ政権への働きかけを続け、他方でTPP署名国は連携して批准手続きを進めることが重要です。その意味で、最近のニュージーランドの国内手続き完了は良いことですし、日本が国会手続きを進めていることも良いことです。他方、11月18日、ベトナムは国会提出を中止しました。
11月12日にトランプ政権のウェブサイトに発表された「トランプ政権12分野の政策」の中には、TPPからの離脱やNAFTAの再交渉への言及はありません。未だ駆け引きの余地があることを示しているのかもしれません。
関係閣僚の陣容は貿易政策に影響します。移行チーム内の闘争で、顔ぶれも変わってきています。副大統領のペンスは自由貿易主義者とみられています。
オバマの不発となった議会承認計画に関する社説の説明は興味深いです。また、オバマが長年行われていたTPP交渉の完了を選挙の年にしたのは無謀だと批判するのも興味深いです。日米FSX共同開発取り決めの議会手続きがレーガン政権からブッシュ政権への移行期と重なり議会で大問題になり、日米間で「クラリフィケーション」の交渉をしなければならなかった時のことを思い出します。教訓は、重要案件は同一政権内で処理すべきだということです。
日本のメディアには、これで日本はRCEPを推進していくべきだとの議論がありますが、米国の入っていないRCEPは、TPPの代替にはなりませんし、インドや中国も入っており、高い自由化を達成することは至難です。メキシコが米国抜きのTPP発効を言っていますが、良い考えとは思えません。当面大事なことは、TPPが死なないようにすることではないでしょうか。
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