「撲滅すべき病気の原因」と
とらえられてきた微生物
コッホやパスツールらによる病原体の発見以来、微生物は「撲滅すべき病気の原因」ととらえられてきた。「病原体としての微生物」という考え(細菌論)にもとづいてさまざまなワクチンや抗生物質がつくられ、そのおかげで多くの人の命が救われた。感染症はもはや、先進国では主な死因ではなくなった。
しかし、一方で、「悪玉菌を一掃すれば事足りる」という意識は、抗生物質の安易な使用や抗菌剤だらけの生活を後押しした。
その結果、薬剤耐性菌がはびこり、私たちの体内の微生物相は改変され、免疫系の乱れや新たな慢性疾患をもたらすはめになったのは、皮肉な事実である。
本書のユニークさは、人体で起きた微生物相の改変と、土壌環境で起きたそれを、表裏一体のものとして結びつけた点にある。腸では内側が環境だが、植物の根では裏返って外部が環境になる、というわけだ。
そもそも人類は、有機物と土壌の肥沃度との関係に経験的に気づいてから、農地に堆肥や作物残渣などの有機物を与えてきた。ところが、有機物に含まれる栄養分は植物の成長に寄与していないことが科学的に分析されると、代わって化学肥料を与えるようになった。
化学肥料は当初、収穫量の爆発的な増大をもたらしたが、やがて低下した。それどころか、病気や害虫に悩まされるようにもなった。
実は、土壌中の有機物は植物の栄養になるのではなく、土壌に棲む生物や微生物の栄養になり、こうした土壌生物が植物の栄養の取り込みを助けたり、病虫害を予防したりしていたのだ。
植物に含まれる微量栄養素(銅、マグネシウム、鉄、亜鉛など)は、植物の健康と、植物を食べるものすべての健康の中心であるフィトケミカル、酵素、タンパク質を作るために欠かせない元素だが、ゆゆしきことに、その含有量が近年減ってきていると、著者らは眉をひそめる。