2024年4月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年1月12日

 この論説の最大の問題は、イラン核合意の意味を取り違えていることです。イラン核合意は、イランの核兵器潜在製造能力を原則10年間厳しく制限するものです。イランの地域での拡張的活動、いわゆるテロ支援、人権などは対象に含まれていません。合意の対象は限定的で、その意味で、多くの国際合意がそうであるように、合意は不満足なものです。

的外れな核合意批判

 イランの地域での拡張的政策、いわゆるテロ支援、国内の人権抑圧は、それら自体は批判されるべきものであるとしても、このようなイランの行動をもって核合意を批判するのは的外れです。イランの核交渉は極めて困難なものでした。この論説のような見解は常に存在し、かなり有力でした。イラン国内にも強硬派は執拗に交渉に反対しました。しかし、イランの核開発能力の制限が当面の最大の課題であるという点で、安保理の常任理事国の意見が一致し、イランも制裁の解除に大きな利益を見出した結果、米国内の強硬派、イスラエル、一部のアラブ諸国の強い反対を押し切って合意が成立したのです。

 論説の言う再交渉は、合意の対象外のイランの行動を採りあげようとするもので、イランが乗ってくる可能性は全く考えられず、トランプの言う合意の破棄と実質変わりありません。それはまた、国連安保理の一致した見解に反するものです。

 合意が破棄されれば、イランの核開発問題は振り出しに戻ります。イランは全力を挙げて核兵器潜在製造能力の取得に努めるでしょう。サウジの核武装が現実味を帯びてきます。イスラエルはイランの核施設の爆撃を検討するでしょう。合意の破棄は、不安定な中東を一層不安定にさせることになります。トランプもこの論説の筆者も、イラン核合意の破棄がもたらす結果を十分吟味すべきです。

  
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