2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2017年1月12日

 ではどうすべきか。「ダブルスタンダード外交」をやめること、これ以外にはないだろう。WCPFCの他のマグロ資源で採られている同一のスタンダードに基づき、資源回復措置を率先してリードするのである。

 具体的には、太平洋クロマグロ資源の保全管理策を他のメンバーとともに北小委員会で話し合い、初期資源量比20%を中期資源回復目標に定めた管理スキームを来年勧告、WCPFC本委員会での採択を目指すことがとりあえずの目標となるだろう。国内的には、漁獲枠の削減によるクロマグロ漁業者の痛みを軽減する措置を策定する必要もでてこよう。現在クロマグロは国内で巻網、はえ縄、定置網、竿釣りなどの方法で漁獲されているが、2014年の太平洋クロマグロ漁獲量約9,604トンのうち半分以上の5,456トンが巻網による漁獲であり、定置は1,907トン、竿釣りに至っては僅かに9トンであるにすぎない(ISC調べ)。定置網は混獲が避けられないことから管理が難しく、これに対するさらなる規制は沿岸漁業者に更なる混乱を招きかねない。これに比較して巻網は漁獲対象魚種を選ぶことが可能であり、また産卵親魚を対象とする夏季のクロマグロ漁を全面的に停止するなどの措置を取れば、IATTCからの勧告で指摘されている通り、資源回復に資することになろう。したがって漁獲の全面停止も含めたドラスティックな措置を巻網対象に実施するとともに、休漁補償等痛みを軽減するための措置を適宜導入するというのが一案として考えられよう。また、沿岸漁業者に対しても一定の規制強化は避けられないが、こうした措置の実施に際しては一本釣りのような小規模零細漁業者や定置網漁業者に対する軽減・例外措置を導入すべきであろう。

 沿岸の小規模零細漁業者に対する軽減措置は、WCPFC条約でも認められている。すなわち、WCPFC加盟国はマグロ類など条約が対象とする回遊魚の管理のため、「零細漁業者及び自給のための漁業者の利益を考慮に入れること」を保存・管理における原則の一つと規定している(第5条)で、加えて、「FAO(国連食糧農業機関)責任ある漁業のための行動規範」は、各国が自国排他的経済水域内での「伝統的な漁場及び資源への優先的なアクセスについて、漁業者、漁業労働者(とりわけ生存漁業、小規模漁業、沿岸小規模漁業に従事している人々) の権利を適切に保護すべきである」と謳うとともに(6.18)、漁業管理のための措置は、とりわけ「生存漁業、小規模漁業及び沿岸小規模漁業を含む漁業者の利益が考慮されること」(7.2.2.)を求めている。実際、大幅な漁獲制限を実施したICCATでも、FAO責任ある漁業のための行動規範に即するかたちで、零細漁業に対する例外が認められている。

 確かに資源保護のための厳しい管理目標の設定と規制大幅強化は、一時的ではあれ、漁業者に大きな痛みを伴うことになるだろう。大西洋でも同じことが経験された。しかしその痛みの結果、大西洋クロマグロは大幅な資源回復を果たした。大西洋だけではない。乱獲や違法操業により資源が激減したミナミマグロは2035年までに初期資源量比20%に回復させる管理措置を採択、管理措置強化の過程で日本も漁獲枠が2006年に6,065トンであったものを2010年には2,400トンへと半減以上の大幅な削減を余儀なくされた。漁業者は多大な犠牲を払ったが、現在資源は回復に向かっているとされ、今年この資源を管理している「みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)」ではこの機関が設立以降最大の漁獲枠の設定が合意された。この結果を受け業界団体代表は、「資源管理をしっかりすれば水産資源は増える」と胸を張り、この交渉を担当した水産庁の担当官は「資源が悪化した時は漁獲を抑制して回復を待ち、資源が増えてくれば科学的な根拠に基づき漁獲が可能な範囲で増やすという流れは、今後、ほかの漁業管理機関が目指す理想が実現した」とミナミマグロにおける成功例の意義を力強く語っている(水産経済新聞2016年11月25日付)。

 最早「ダブルスタンダード」へ拘泥し無意味な規制とそれを正当化する言葉遊びをする時間など残されてはいないし、ごく一部の水産業界の短期的利益のためだけに日本という国の名や外交関係を傷つける余地などありはしない。大西洋クロマグロでの成功例を、太平洋クロマグロでも直ちに受け継ぐべきである。ミナミマグロでの理想を、WCPFCでも目指すべきである。それこそが、太平洋クロマグロ資源の保存と持続可能な利用につながり、長期的にはクロマグロ漁業者の利益につながる。そのことを、大西洋クロマグロとミナミマグロの事例は私たちに教えてくれている。

  
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