フォーリン・アフェアーズ誌が、1月31日付で同誌ウェブサイトに、テロ問題の研究者Charlie WinterとColin P. Clarkeとの連名による、イラク、シリア以外の地域でのISIS(イスラム国)の活動は衰えていることを、その宣伝活動の頻度分析から指摘した論説(電子版)を掲載しています。Winterはオランダのハーグにある「テロ対策国際センター」のアソシエイトフェロー、Clarkeは米RAND研究所の研究員です。要旨、次の通り。
1月24日、イラクのアル=アバディ首相は、モスル東部がISISから完全に解放されたと声明した。ISISは2016年、シリアとイラクでの掃討作戦のために何名かの幹部が殺害、捕捉され、財源も大きく失った。支配地域も縮小している。これからの数年で、ISISは分解していくだろう。
それは二つの過程のいずれかをたどることになろう。一つは、全体として弱まりながら、中心部(シリア・イラク)の比重が増大していくというもの、そしてもう一つはアルカイダが2000年代にたどったように、中心部の力が弱まり、アフガニスタン、リビア、シナイ半島、イエメン等周辺部での勢いが強まる、というものである。
おそらくISISは後者のシナリオをたどるものと思われる。これをテロ撲滅作戦の勝利と見るか、周辺部のテロ組織が更に一層過激化し、戦いを長引かせると見るか。そこはまだわからない。
確かなことは、ISISが分解しつつあることだ。それは、ISIS諸グループの行っている宣伝活動を分析してみるとよくわかる。最近半年で、各地での宣伝活動は減少している。57カ所の「放送局」乃至、コンテンツ製造拠点の活動を分析してみると、2015年のピークで40以上の拠点が活動していたのに対し、2017年1月半ば現在で活動しているのは19カ所に過ぎない。それもシリア、イラクに集中し、戦闘要員の国際的な徴募活動も衰えている。支部が発出する宣伝を中央のものとすり合わせておくためには、頻繁な連絡が必要なのに、最近ではそれも衰えている。そのような状況下、ISISの中核部は、拡張よりも残存、生存に焦点を絞ってきている。
そしてISISは戦闘要員を出身国に戻し、そこでテロをやらせようとするだろう。またシリア、イラクでは、ISISは支配地域を失うにつれ、ゲリラ的なテロ活動に訴えて来るだろう。
ISISの分解は反テロ作戦の成果で、歓迎するべきことだ。更に残党の掃討を行うとともに、ISISにつけこまれないよう、途上国のガバナンスを向上させ、汚職を削減していくべきである。
出典:Charlie Winter & Colin P. Clarke,‘Is ISIS Breaking Apart?’(Foreign Affairs, January 31, 2017)
https://www.foreignaffairs.com/articles/2017-01-31/isis-breaking-apart