2024年4月19日(金)

WEDGE REPORT

2017年3月9日

警察にスピード誘拐される

港街プエルト・カベ―ジョ。「社会主義はすばらしい」との落書きが

 ベネズエラの治安組織は、州警察、市警、国家警察、科学捜査、そして政治犯・スパイなどを対象とするSEBINに分かれている。このうち、厄介なのは州境にある関門所でワイロを要求する国家警察と、麻薬、誘拐、武器、車両検査を行う科学捜査局だ。その餌食となったのは、通関業者のフレディだった。

 オフィスを夕刻に出ると、パトカーがとまっていた。車から出てきた中年の男人と若者が手招きをした。科学捜査局の警官だった。

 そばまでいくと、銃をつきつけられ、両手をあげるように命じられ身体検査をされた。

「ヤクはどこだ?」

「えっ、そんなもん!」

「乗れ!」

 パトカーの後部座席に押し込まれ、隣に若い警官がのった。運転席の年上がいった。

「おまえの家にいくぞ、コカインがあるのは分かっている」

 まったくの濡れ衣だった。警官は正しい道順を通って郊外のほうへ出ていく。彼の家をすでに下見をしていたのだ。家の前につき、いっしょに中に入ると、彼らは言った。

「ブツを出せよ」

「でも、ないんです」

「じゃあ、家探しするぞ、いいか」

「どうぞ」

 彼らは机や棚の引き出しをあけ、書類を出し、写真アルバムを出し、衣類を出し、下着を出した。1時間近く警官たちは家探しを続けたが、どこをどうさがしても、コカインなど出てくるはずがない。彼らが疲れてきた頃合いを見計らってフレディはいった。

「じゃあ、何も出ないですから、もういいですか」

 すると、年上のほうの警官が答えた。彼らは甘い存在ではなかったのだ。

「3000ドル出せ! さもなきゃ、ここにコカインを置く!」

 フレディは親戚中に、電話をして、金をかき集めるほかはなかった。3000ドルは彼らのほぼ年収に相当する。これら私と私の回りで起こったまだ牧歌的な犯罪は、2008年~2010年にかけてのものだった。

かつては南米一平和だった

 私が初めてベネズエラを訪れたのは1988年だった。そのときは南米一安全で優雅な国だった。当時カラカスのサバナグランデの大通りは、原宿のように世界中の贅沢品でショーウィンドーが輝き、人々はカフェテリアで優雅にチェスやドミノを楽しんでいた。なぜこれほど犯罪が増えたのか? 友人たちにきくと一様に答えた。

「政府が犯罪を奨励しているからさ。犯罪から身を守ることで多忙で、政治に目がいく余裕がなくなる。これが革命というものだ」

 にわかには信じかねた。北朝鮮の政権といえども、国内の治安を守ろうとするはずだ。ところが、2014年~現在にかけ、犯罪は焼結を極めてきた。猟奇的でさえある。さらに、刑務所から囚人が戒厳令を出すようになった。政府は本当に犯罪を奨励しているのだろうか? 取材してみた(続く)。

【筆者講演のお知らせ】
演目 報道されないラテンアメリカと世界
日時/場所 3月10日(金) 19時10分~(18時30分からのIoT関連の専門家の講演終了後)
東京ウイメンズプラザ「第1会議室 B」 (渋谷区神宮前5-53-67)
参加費 女性・学生 無料 初参加の男性1000円
終了後 親睦会あり
主催・問合せ:ビジネス推進機構 野口孝一(携帯:090‐3816‐6245)

  
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