2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年4月3日

 イエメンがイラクとシリアから逃れるISの戦闘員たちの理想的な避難先であることは疑いありません。イエメンでは北部のホーシー派とハーディ大統領の政府との間で激しい戦闘が行われており、治安は極端に悪化し、イエメンは破綻国家の様相を呈しています。

 しかし、イエメンがイラクとシリアを追われたISの主要拠点になるとは考えられません。一つには論説が指摘するように、イエメンのジハード組織の中心はAQAPであり、AQAPの指導部が、仮にUAEの支援を受けた地上軍と米国の無人機攻撃を受け続けるとしても、AQAPが弱体化し、ISの指揮下に入るとは考えられないからです。

イエメンはイスラム世界のはずれ

 その上、イエメンは地理的にいわばイスラム世界のはずれにあり、イラクとシリアを追われたISが、カリフ国の本部を置くのに適しているとは思えません。ISがイラクとシリアを追われて新しい本部を置く必要に迫られるとすれば、リビアの方が地政学的により適しているのではないでしょうか。

 しかし、例えイエメンがISの新しい主要拠点にならなくても、イエメンにおけるISの存在が拡大すれば、イエメンの混迷は一層深まると考えられます。それはアラビア半島の不安定化をもたらし、特にサウジに影響を与えるでしょう。

 イエメンはサウジの裏庭であり、それだからこそ、サウジは宿敵イランが支援しているホーシー派を攻撃しているのです。他方サウジはISを脅威と見なしています。一つはISのカリフ国宣言を、スンニ派イスラムの総本山をもって自ら任じているサウジに対するイデオロギー上の挑戦と受け止めています。また、ISはサウジにおけるテロ活動を公言しており、サウジにとってISは国内治安上の脅威です。したがって、サウジはイエメンでのISの活発化を座視できず、ホーシー派に対する攻撃と共にISをも攻撃することとなるでしょう。

 トランプはISの殲滅を対外政策の最優先事項の一つに掲げています。ISとの戦いは一筋縄では行かないでしょうが、イエメンがISとの戦いの新しい前線の一つとなれば、サウジと協力する必要に迫られるでしょう。

  
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