2024年4月26日(金)

ASEANスタートアップ最前線

2017年4月14日

2) 量を質に転換する

 ソーシングのサイクルを産みだした後、実際に投資案件を選んで投資実行をしていくわけだが、私はこの時、量を意識した。この2年間で、メールで裁いたもの、イベントでブースに立ち寄っただけの案件も含めれば、恐らく2,000社、平均して月100社くらいのベンチャー企業のスクリーニングは実施した。内、30分以上面談し、オフィス訪問させてもらった企業は、内30〜40%くらいだろうか。さらに、その中から「本気で」投資したかった会社は約30社程度に絞り込まれ、実際に自分が中心となって最初から最後まで投資実行のプロセスを担当できた会社は2社のみである(会社としては、年間10-15件は投資している)。実に0.1%の率である。ファンドには期待リターンや要求収益率があるため、どんなに優秀で投資したくてもファンドの方針とマッチせず見送らざるを得なかった会社や、様々な理由で投資のタイミングが合わなかった会社もあった。

 泥臭く、量を意識したソーシングを続けていると、「量は質に転換する」ということを実感でき、特に、自分が詳しくない、初めて取り組む領域については、最初は量をこなすことが礎になると確信できた。面談をこなせば、ビジネスモデルの理解やプレーヤーの状況は瞬時に引き出せるようになり、また最も大切なことだが、ベンチャー企業の社長が、「その時点で本気かどうか」「高い志を持っているかどうか」「本気でやり抜く覚悟があるかどうか」、会話から引き出すことができるようになった。昨今のスタートアップブームで、軽いノリで起業する人が多いのも事実である。日本とは違って経済水準が低いASEAN諸国では、起業に対するハードルがぐんと低い。例えば、マレーシアの場合、新卒の一般的な給与は月8〜10万円程度だが、創業の時の調達資金は日本とほぼ同じである。となると、起業して資金を調達して自分で自分の給料を設定した方が、ずっと割に合うと、優秀な人ほど考える。しかし、我々が要求する成長期待に「本気で」応えようとする起業家の数はごく少数である。

 だからこそ、そのような熱をもった、「本気の」起業家には、私自身も「本気で」接しないといけない。残念ながら、傲慢な態度をとる投資サイドがいるのも事実だし、自分で見極めようとせずに、単純に人気銘柄に投資する(つまり人が良いというから自分も良いと思う)人がいるのも事実である。私自身は、投資するかしない、というゼロイチではなく、いかにそのビジネスが成り立つのか、とか、どう私は(会社は)サポートできるのか、とゼロをイチにする、価値創造を意識した会話をするように努めた。まずは自分の眼で見定め、この人は!という人には徹底的に本気のコミュニケーションをとる。このように、内容の濃い会話をたくさんこなすことで、自分が元々全く知らなかった地域やエリアでも、質の高い会話をより短時間でできるようになったと思う。


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