2024年12月22日(日)

ASEANスタートアップ最前線

2017年4月14日

 今月、投資先Kudoがライドシェア・タクシー配車アプリのGRABに買収されたことが発表された(詳細は本記事をご覧ください)。Kudoについては、2015年の初期に早速記事を書いた(『インドネシアの風雲児KUDO Eコマース×信用で未来切り開く』)ほど可能性を感じた会社だったが、ファウンダーのAlbertは、創業からわずか数年で、文字通り億万長者になったわけであり、まさに、ASEANドリームを象徴するかのようなニュースだ。彼は、もちろんGRAB傘下の一員として今後もKudoビジネスを成長させるが、一つの区切りになったことには間違いない。これに続いて、今後もASEANから有望な起業家が台頭することを期待したい。

起業家友人たちと筆者(左から3人目)

 彼と同じくして、自分も一つの節目の月となった。この4月で、私のシンガポールを中心とした東南アジアでのベンチャー投資の生活に終止符を打ち、次のステージへ進むことになった。ASEANのようなまだまだ発展途上の地域で、ベンチャーキャピタルに所属して働くことの醍醐味は、特定の業種に絞るのではなく、素晴らしい起業実績を持つ投資家の方が世界中から集まり、これからのこのエリアの次世代を担う起業家、そしてテクノロジーによるソーシャルインパクトに囲まれながら生活をできたことであろう。

 最初は全く土地勘も無かった一日本人が、どのようにしてローカルの現場に食い込み、活動してきたのか。2年前の自分と比べて、何が変わったのか。「ASEANベンチャー投資で学んだこと」という題目で、私自身の2年間の活動について、私なりに感じたことや考えたことを振り返り、下記5点にまとめ、本連載の最終回として総括してみたい。

1) ユニークさを意識する
2) 量を質に転換する
3) 徹底的に汗をかく
4) 人生のKPIを設定する
5) 鋼鉄の意志を持つ

1)ユニークさを意識する

 有望な投資先を発掘することを「ソーシング」というが、私は業務の半分の時間をこの「ソーシング」に費やした。恐らく、どこの国でもそうなのだろうが、ベンチャー投資の世界は、ソーシングについていえば、とってもムラ社会である。日本でもよく、ムラ社会ムラ社会と言われるが、よっぽど、この世界の方がムラ社会だと感じた。それもそうである。優秀な起業家がどうして外国人の私に会いに来てくれるのだろうか?誰が「金の卵」を他の投資家に紹介するだろうか?「投資をさせてもらう」という優良案件にタッチするのは至難の業である。

 最初の半年間は、私はこの問題に頭を悩ませた。意気盛んなローカルの起業家にいかに振り向いてもらうのか。現地の投資家からいかに価値を感じてもらうのか。自分はマレーシアを担当していたのでマレーシアには最低月1回から2回、各回1週間は滞在してネットワーキングに励んだ。一通り、キーマンと言われる人や組織と出会うことはできた。でもこれは時間をかければできることである。若さと勢い、日本人というブランドで注目はしてくれても、なんだか遠目で見られているし、壁は感じた。

 ターニングポイントは、とある著名な投資家の知人が、「日本に行くのだけど、どこに行けばいいのか?」と相談をしてきてくれたことだった。自分はありったけの情報を送ったわけで、後から感謝されたが、ここで大切なことに気づく。なぜ彼は私に聞いてくれたのか? 海外経験が少ない日本人だからである。自分の価値は自分で持ちえるこれまでの経験からしか産まれない。「自分にしかない価値」を見極めてそれを表現していけばグローバルな環境でも戦える、ポジションは必ず作れるとその時改めて気づいたのだ。

 実際、自分にとっての強みは、電通時代に様々な業種のブランディング~デジタルマーケティングを担当したことから活きた。業種ごとのCPC/CVRの相場や、そこから類推できるLTV、業界毎の王道なブランディング・マーケティングの知識や経験は、特にファイナンスしか知らない人(そしてこれが業界に存在する多くを占める)から、意見を求められる機会も多かった。結局、投資したグロースマネーの大部分がマーケティングに使われるため、最適化は非常に重要なわけだ。アドバイスした起業家から売上伸びたよ! という連絡を頂いた時は嬉しかったし、それが評判になって起業家が起業家を紹介してくれるサイクルに入ることができた。


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