3)徹底的に汗をかく
自分のワークシェアのもう半分は、投資先の経営支援に充てて活動をした。実際、経営支援という名のもと、成長戦略からリストラ施策、マーケティング・財務・人事関連と、様々なことを経験させてもらった。ここで紹介したい具体的な案件としては、マレーシアの投資先(中古車販売)の事例を紹介したい。当初は月数百万円しかなかった売上高が、一年で月数億円の規模まで一気に成長した。具体的には、中長期的な予算策定と財務モデル、資金調達に向けた事業計画の創りこみやキーマンの採用支援を行った。リード投資家では無かったため、社外取締役など役職についていたわけではないが、自ら仕事を創り、CFOのような存在として関与させてもらった。私を信じて機会を与えてくれた、投資先企業の社長に感謝である。
では、なぜ、このように、国籍も違う環境で、信頼を勝ち取ることができたのか? 今振り返ると、徹底的に汗をかいて働いたから、ではないかと思う。サポートしていた時は、これでもか! というくらい、遠慮なく自ら動いた。月に2回はオフィスに行き、ほぼ毎日メンバーとコミュニケーションをとった。日系の自動車関連の人には片っ端からコンタクトをとり、現地のディーラーなどにも足げなく通った。わからないことは聞き、調べ、言いたいことは遠慮なく言った。経験が全く無かった財務周りも、会社に中長期的な財務計画が無かったため、これは自分がやる!と言い切って、見様見真似でモデルを作ってみた。市場の全体が理解できる資料が無かったため、現地のプレーヤーにヒアリングしながらサポート資料を一から作ってみた。
誇らしかったことは、資金調達のため、とある某著名米国系VCとのMTGで、自分が作ったサポート資料を持っていたところ、「ここまでスタートアップのためにサポートする人は初めて見た!」と言ってもらえたことだ。逆に、正念場のMTGで、責任を感じ一生懸命対応していたところ、MTGが長引いてしまっていたことにも気づかず、その後に控えていたMTGをドタキャンするに至ってしまい先方を怒らせてしまったこともある。実際に、投資先企業の社長から「もう会社のメンバーになってくれ!」と言われたときは、非常に嬉しかったし、徹底的に汗をかいて動けば、国境を越えて信頼を勝ち取ることはできるのだと、強い自信につながった。
経営に深く関与する一方で、自分自身が会社にとって必要不可欠な存在にはなってはいけない、という矛盾した感情も同時に持ち合わせたのも事実である。あくまで主役は経営陣であり、所詮、私は投資サイドの人間、株主の一人である。本気でやり抜きたいなら投資会社をやめてその企業に入るべきだし、投資会社にいるなら複数の案件を見なければいけないため、自分が一企業の絶対的なピースになってしまっては困る。要はバランスが大事である。この矛盾は、特にハンズオン志向の人は誰もが抱える永遠の悩みのようで、どうすることが最善なのか、今でも色々な方と議論している。きっと終わりのない議論なのだろう。それでも、私個人としては、汗をかくことは止めたくはない。価値創造のために「共に汗をかく」株主こそ、自分が目指したい理想の投資スタイルである。