2024年4月25日(木)

特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年4月24日

出口:正統がふわふわしていたら、異端もふわふわしてしまいますよね。

森本:そう、ふわふわなんですよ。実は、正統は担う方も大変です。批判もされますが、だからこそ正統を担う人はそれを覚悟で王道にいないといけない。たとえて言うと、「憎たらしいほど強い」と評された北の湖のような横綱がちゃんといないと、それに向かっていく力士も腰砕けになっちゃうんです。

出口:ふわふわしているのはなぜだと思われますか?

森本:うーん、なぜでしょう。

出口:僕は、勉強しないからだと思うんですよ。

「日本は、知性に対する尊重がありません」

出口:単純に数字だけを見れば、日本の大学進学率は50%ほどです。OECD平均が60%なので、大学に行く人がまず少ない。そしてこれは100%企業の責任だと思いますが、採用するときに成績を見ませんね。

森本:ええ、まったく見ません。悲しくなるくらいです。

出口:ということは、行く人が少ない上に、勉強もしないわけです。要するに国全体として勉強していないんです。

森本:厳しいなあ!

出口:なぜかと考えてみると、戦後の日本を興していくモデルは製造業だったからです。

森本:発展の材料となる人間、「人材」という意味ですか?

出口:そうです。工場ってベルトコンベアでモノが流れてきて、そこで人間が仕事をしますよね。そうなると、我慢強くて素直で協調性があればいい。特に知性はいらないんです。

森本:なるほど。そういう人たちを養成するのが戦後の日本の目的だったんですね。

出口:ええ。野口悠紀雄さんの『1940年体制』という名著がありますが、基本的に日本は、戦後の工場モデルを今も引き継いでいるのです。

森本:そこからイノベーターは出てこない。

出口:その通りです。知性的な社会を作るには、例えば経団連の会長がある日突然「来年から優が7割ない学生は、経団連参加企業は採用面接しません」と言いきればいい。そうすれば変わると思うんですよ。

森本:いいですねえ。こういうことを言ってくれるビジネスリーダーがいると、大学は変わります。

出口:語学力についても、「日本の教育が悪い」とか「大学は何をやっているんだ」という人もいますが、そんなの1年で変わります。これも経団連の会長が「TOEFL100のスコアを持ってこなければ面談しません」といえば終わりだと思うんです。

森本:確かに! 大賛成です。外圧でしか変われない日本の大学も困りますけど。

出口:これから伸びていくのはサービス産業です。工場モデルと違って、アイデアや知恵で勝負するしかないので、成績重視の採用をしたほうがいい。それがすべての気がします。

森本:おっしゃる通りですね。日本は学歴社会といっても学歴の重みがありませんし、大学でどんな勉強をしたかも問われません。経済学部を出たからといって、経済をよくわかっているとは限りませんから、問わない理由もわかるんです。でも、大学の勉強は考える力を養う基礎力が大事なので、専門をどれだけ勉強したかじゃないと思うんです。

*後編へ続く(4月25日公開予定)

森本 あんり(もりもと あんり)
1956年神奈川県生まれ。国際基督教大学人文科学科卒。東京神学大学大学院を経て、プリンストン神学大学院博士課程修了。プリンストンやバークレーで客員教授を務める。国際基督教大学牧師、同大学人文科学科教授等を経て、2012年より同大学学務副学長。主な著書に『アメリカ・キリスト教史』(新教出版社)、『アメリカ的理念の身体』(創文社)他。
出口 治明(でぐち はるあき)
1948年三重県生まれ。京都大学法学部卒業。ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長。日本生命保険相互会社に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2016年6月より現職。
主な著書に『世界一子どもを育てやすい国にしよう 』出口治明・駒崎弘樹 (著)(ウェッジ)、『「働き方」の教科書: 人生と仕事とお金の基本』(新潮文庫)他。


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