シリーズ「東芝メモリを買ってほしいところ、買ってほしくないところ」

2017年5月10日

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湯之上隆 (ゆのがみ・たかし)

微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(修士課程原子核工学専攻)を修了後、日立製作所に入社。以後16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、デバイス開発センタ、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて、半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士授与。現在、半導体産業と電機産業のコンサルタントおよびジャーナリスト。微細加工研究所所長。著書に『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)など。

意味がない外為法違反

 前記日経新聞では、経産省は「外資なら国・地域を問わず審査する意向」だそうだが、特に、中国企業による買収を警戒している節がある。

 その理由としては、ジャーナリストの歳川隆雄氏の記事『「東芝はアップルに売りたい」経産省幹部が漏らしたホンネ』(現代ビジネス3月4日)の記事が参考になる。記事によれば、ある経産省幹部は、「鴻海がシャープを傘下に入れたのはまだ許容できる。しかし、東芝は全く別モノだ。鴻海は主要工場が中国本土にあり、仮に高度な技術の結晶であるフラッシュメモリーが中国で生産されるようなことになれば、その技術は直ちに中国に盗まれる。そんなことは断じて認められない。体を張って阻止する」、「半導体の安定供給を必要とするIT大手の、例えばアップルに売ったほうがまだマシだ。中国ではなく米国だ」と言ったという。

 筆者はこの記事を読んで、経産省幹部はNAND事情を何も知らないのではないかと思った。というのは、第4回の本コラムで詳述したように、既にサムスン電子が2016年から、中国の西安工場で48層の3次元NANDを量産している。そして中国の紫光集団傘下のXMCは、共同開発しているスパンションがサムスン電子とクロスライセンスを締結しているため、サムスン電子の3次元NANDをそっくりそのまま模倣して製造しようとしている。しかもこれは、合法である。

 XMCは昨年から試作を始め、まず9層(8層+コントローラ)の動作に成功し、32層の試作に取り組んでいる。早ければ今年中にも32層の3次元NANDを製造することができるようになるだろう。XMCの技術は最先端から2年遅れ程度であるが、いずれキャッチアップすると思われる。

 一方、3次元NANDの量産に苦しんだ東芝は、サムスン電子の西安工場の3次元NANDを盗用したSKHynixを盗用した。これらから分かるように、3次元NAND技術で最先端を突っ走っているのはサムスン電子であり、東芝メモリの技術は周回遅れとなっている。

 つまり、中国では、サムスン電子が西安工場で3次元NANDを量産中であり、紫光集団傘下のXMCも最先端からは2年程遅れてはいるが、いずれ3次元NANDの量産に漕ぎ着けるであろう。さらに、東芝メモリの技術はサムスン電子の周回遅れとなっている。そのような中国に、「外為法違反で東芝メモリを売らない」といったところで、何の意味もない。

外為法は東芝メモリと東芝に何をもたらすか

 3月29日の1次応札前には、10社を超える企業やファンドが入札しようとしていた(表1)。

 この中で、筆者がもっとも買ってほしいと思っていたのは、台湾TSMCであった。また、米グーグルやアマゾンも相当いいと思っていた。さらに、台湾ホンハイと中国紫光集団も良いと思っていた。

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