2024年11月23日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年6月30日

 「経営者のバックにいたのが江沢民に近い人物だった。今回の『天上人間』の摘発は、江沢民の勢力減退と関係がないとはいえない」と解説するのは先の消息筋だ。

 中国で今、最も大きな問題の一つである不動産価格の高騰は、幹部と業者が結託して価格をつり上げた結果であり、特権にありつけずマンション購入に程遠い一般民衆は不満を爆発させている。不動産バブルとは単に経済問題ではなく、政治問題の色彩を濃くしているのだ。「天上人間」内部で行われた癒着は、歪んだ中国社会の縮図でもある。

 「この『政』と『業』のしがらみを断ち切り、不公正社会をなくすことが胡錦濤にとっての政治改革の第一歩となるのだ」と中国知識人は解説する。

2012年に向け、注目集まる習近平の言動

 メディアやネットの規制を強める胡錦濤政権だが、社会の内部では皮肉なことにネットなどを通じて公民意識や権利意識が沸々と沸き起こっている。共産党がこうした民意を無視し続け、政治体制改革や民主化を怠れば、ソ連やルーマニア、北朝鮮のような末路をたどるという危機感を強めているのは確実だ。今後の中国の政治改革の方向は、「官」だけで決まる時代ではなく、「民の台頭」と「官の危機感」のせめぎ合いの中で見えてくる。

 「天上人間」や不動産バブルを信奉する高級幹部や企業家・富裕層は、高度成長至上主義を貫いた江沢民政権の下、「政治体制改革などなくても成長したからいいではないか」と開き直るが、胡錦濤はそう認識していない。

 胡錦濤が権力基盤を強める中で、次期総書記の最有力候補である習近平国家副主席もうかうかしてられない。「習近平がトップになるなら、政治体制改革に前向きな姿勢を見せ、胡錦濤から評価されなければならないことを自分で分かっているはずだろう」

 つまり習は「胡耀邦のDNA」を前面に出せるか。2012年秋の第18回共産党大会に向け習近平の言動に注目が集まっている。

※次回の更新は、7月7日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜


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