2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年5月17日

 本年4月のバグダッドの様子は、1年前と比べ、モスル奪還の攻防戦は未だ続いているものの、イラク政治はIS後の情勢を見据えつつ、本年秋の地方選挙、来春の国政選挙に向けて動き出しつつあるように見えました。この論評が取り上げていることは、ポストISのイラクの中長期的安定と国の在り方にとって重要かつタイムリーなものであり、また内容も基本的に妥当なものです。

イラクにおける米国とイランの関係は複雑かつ微妙なもの

 イラクとイランの関係、またイラクにおける米国とイランの関係は複雑かつ微妙なものであり、なかなか一筋縄ではいかないところがあります。今回の対IS戦において、シーア派民兵への支援を通じてイランの影響力が増したことは事実ですが、これは必ずしもイラクのイラン属国化を意味するものではなく、シーア派系政党、民兵組織の間でも親イランの度合いは様々であり、今後は来年の選挙に向けてイランに近いマリキ副大統領(前首相)派とイランとは一定の距離を置くアバディ現首相派との争いが一つの焦点となるでしょう。

 米国については、オバマ前政権による米軍全面撤退により急激に影響力を弱めましたが、対IS戦において漸く本格的な支援、関与を強化した結果、影響力を回復し、アバディ政権の存続、政治基盤の強化に繋がっています。問題は、イラクにおけるIS戦が終了した後も、基地も含め一定の米軍の存在を維持するのかであり、またアバディ政権(或いは来年の選挙の結果生まれる政権)が米軍の駐留を望むのかにもかかってきます。

 オバマ政権による全面的な撤退が、その後のイラクの分裂状況とISの台頭を許したこと、またイランの影響力増大をチェックし、スンニ派、クルド系の安心感を確保することが政治的安定にとって重要であることから、今回は何らかの形での駐留継続を行うことが望ましいですが、トランプ政権が如何なる政策を打ち出すか現時点では不透明です。トランプ政権発足後はマティス国防長官、最近ではクシュナー上級顧問がイラク訪問しており、この辺の意見が反映されれば駐留継続の可能性も出てきます。

 なお、イラクにおいては、イスラム過激派の排除を含む中央政府の安定は、イラン、米国共に望むものであり、この点では戦略的利益は共通します。また、サダム・フセイン後のイラクがシーア派政権であることを前提にすれば、イランが強い影響力を持つことは避けられません。従って、今後もイラクにおいては、米国とイランは、互いの一定の存在価値を認めつつ、競合的な関係をマネージしていくという複眼的な視点に立った政策が求められます。

  
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