全米でも連続殺人事件への関心が高まる中、フーバー長官はFBIの捜査員を現地に送り込む。捜査員たちは地道な聞き込みや潜入捜査を命がけで決行し、有力実業家やインディアンと結婚した白人の男が殺人を計画し、地元のならず者たちが犯行に加担した実態を暴きだす。FBIは裁判でも勝利をおさめ悪人たちを刑務所へ送り込むことに成功した。
フーバー長官の目論見は的中した。しかし、フーバーは不幸なインディアンたちのために立ち上がったわけではなかった。まだ権威の弱いFBIの評判をあげることが真の狙いだった。
For Hoover, the Osage murder investigation became a showcase for the modern bureau. As he had hoped, the case demonstrated to many around the country the need for a national, more professional, scientifically skilled force.
「フーバーにとって、オセージ殺人事件の捜査は、近代的なFBIを象徴する模範ケースとなった。フーバーが望んだように、この事件の捜査は全米の多くの人々に対して、国全体をカバーし、より専門的で、科学的な捜査手法を備えた捜査機関の必要性を訴えかけたのだ」
FBIは1932年には、実際の事件を題材にしたラジオドラマの放送にも協力を始める。そのドラマの初期のエピソードのひとつがオセージ族の殺人事件を扱ったものだったという。FBIは組織のイメージ戦略の一環としてインディアンたちの悲劇を利用したのだ。逆に、それだけ利用価値があったということでもあり、オセージ族の連続殺人事件は当時、かなり社会の注目を集めていたことになる。実際、1926年に行われた裁判は話題となったようだ。
A local historian later ventured that the Osage murder trials received more media coverage than the previous year’s Scopes “monkey trial,” in Tennessee, regarding the legality of teaching evolution in a state-funded school.
「ある郷土史家は後年、大胆にもこう言い切っている。オセージ殺人事件の裁判は、その前年のテネシー州のスコープスの進化論裁判(進化論を州立の学校で教えることの適法性に関する裁判)を上回る、メディアの取材対象となった」
FBIは一連のオセージ殺人事件では計24人が命を落としたとして、事件の捜査を終わらせた。ところが、本書はさらに追及を続ける。当時の捜査資料を読み解くと、そもそも全米で話題になったオセージの連続殺人事件は氷山の一角にすぎず、もっと多くの殺人が闇に葬られたままだという。取材のために現地を訪れ、オセージ族の末裔たちに会って話を聞いた筆者は、不審な死をとげた自分の祖先たちも実は殺人事件の犠牲者なのではないかという疑念を持ち続けている人々に出会う。筆者は当時の資料を読み込み、複数のインディアンの不審死にかかわった疑いがある銀行家の存在も割り出している。
そうしたオセージ族の末裔のひとりの次の言葉は重い。
“A murdered Indian’s survivors don’t have the right to the satisfaction of justice for past crimes, or of even knowing who killed their children, their mothers or fathers, brothers or sisters, their grandparents. They can only guess—like I was forced to.”
「殺人事件の犠牲となったインディアンの遺族たちは、過去の犯罪に対し法の裁きが下され納得する権利を持っていない。あるいは、自分たちの子供を、あるいは母を、父を、兄弟姉妹を、孫を殺したのは誰かを知る権利さえない。単にだれが犯人かを推測するしかないのだ。私自身がそうせざるを得なかったように」
アメリカの歴史の闇の部分を切り出し、スリリングに語りながら、現在でも心に傷を抱えた人々がいることを知らしめる良書だ。
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