2024年4月20日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2017年6月6日

■今回の一冊■
Killers of the Flower Moon
筆者 David Grann
出版社 Doubleday

 きっとハリウッドが映画化するだろう。一読してそう思わせる迫真のノンフィクションだ。1920年代のアメリカ・オクラホマ州で本当に起きた連続殺人事件の真相に迫る。サブタイトルに「The Osage Murders and the Birth of the FBI」とあるように、インディアのオセージ族(Osage)の20人を超す人々が次々と銃や毒薬で殺され、アメリカ連邦捜査局(FBI)が捜査に乗り出す。

『Killers of the Flower Moon』(David Grann,Doubleday)

 オセージ族が住む土地は、豊富な原油を埋蔵していた。その地下資源の権利を保有するオセージ族は、油田を開発する権利を石油会社に売り巨万の富を抱えていた。その利権を狙う白人たちの手により、オセージ族の人々が次々と殺されるのだが、犯人はつかまらない。

 当時は、科学的な捜査手法が確立しておらず警察制度もまだ整備されていなかった。オセージ族の被害者の遺族たちは自費で私立探偵を雇う。しかし、私立探偵そのものが不正に手を染めるたちの悪い連中でもあり、真相は解明されない。しかも、アメリカ政府当局に陳情しても、インディアンの人権を無視する白人がほとんどだ。罪もないインディアンたちを殺した悪漢たちに正義の裁きは及ばないかにみえた。連続殺人が全米でも注目を集め始めたとき、FBIは若き捜査官を現地に送り込む。

 正確には当時、FBIはまだBureau of Investigationと呼ばれていた。組織名にFederal(連邦)がついていないことが物語るように、全米をカバーする捜査機関としての権威を確立していなかった。注目事件を解決してFBIの評判を高め連邦捜査機関としての権威を高めよう。長官のエドガー・フーバーにはそうした目論見があった。フーバーが送り込んだ捜査官たちは見事、真犯人を割り出し刑務所へと送り込む。しかし、現代に至るまで未解決の闇の部分が事件には残っている。本書の筆者は、古い捜査記録を丹念に読み込み、新たな真相も浮き彫りにする。

半ば娯楽として事件が人気に

 粗筋を書くだけでもドキドキする展開だ。本書はニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリスト(ノンフィクション単行本部門)に、5月7日付で5位に初登場した。6月11日付でも6週連続でランクインし5位につけた。ちなみに、タイトルのFlower Moonとは、オセージ族の5月を意味する言葉に由来する。本書が追う連続殺人の最初の事件が1921年5月に起きたからだ。

 冷静に考えると、本書が描くのは、アメリカ人でさえ忘れている、アメリカ建国の歴史の暗黒部分である。北米の先住民であるインディアンたちの人権をいかに無視して領土を拡大したのかも描く。オセージ族から石油の利権を奪い取るために白人たちが手を下した残忍な犯罪の数々も浮き彫りになる。本書でも当時の新聞の表現を次のように紹介している。


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