「アリババは中国と世界をモノでつなぐプラットフォームじゃないですか。我々が考えているのは、日本と中国をモノではなくコンテンツでつなぐということ。アリババのコンテンツバージョンをやりたいと考えています」
こう語るのはゴージャパン(東京都渋谷区)の劉璐社長(34)。同社は訪日旅行(インバウンド)に特化した中国人向けアプリ「GoJapan(去日本)」を2015年にリリースした。アプリは120万人超がダウンロードし、中国のAppStoreの日本関連アプリのランキングで1位に入っている。日本でのアクティブユーザー、つまり訪日時にアプリを使う旅行者は毎月5万人以上で、月平均50万回以上起動されている。
アリババは言わずと知れたeコマースの巨人。それに対し、劉社長は日中間で多様なコンテンツを提供するメディアを立ち上げ「コンテンツのアリババ」を目指すというのだ。
劉社長は1990年に来日し、小中学校と大学を日本で卒業。日本の広告代理店での勤務経験もある。2014年に日本に特化したコンテンツ重視のプラットフォームをつくり、ユーザーとサービス提供者をつなぎたいと思い立ち、日本のエンジェル投資家に相談を持ちかけたところ、即座に「出資してもいい」との答えが返ってきた。
その後とんとん拍子で話がまとまり、日本旅行のガイドブック著者などを共同創業メンバーに迎え、15年11月に創業。日中を跨いだメディアネットワークの形成を将来的な目標に掲げつつ、まず着手したのがインバウンド向けアプリの提供だった。
便利なアプリでユーザー獲得
「中国ではアプリが普及していて、多くの人は何かを調べるにしてもアプリしか使わない。それに、アプリをつくればユーザーのビッグデータが入手できるということもあり、まずはアプリからスタートしました」
その内容は、銀座の飲食店攻略法から駅弁の紹介、温泉特集、電気街の巡り方、買い物攻略までさまざま。買い物スポットやホテル、観光地などを詳しく紹介する都道府県は、東京、大阪、京都、奈良、北海道、沖縄という有名観光地のほかに、神奈川、兵庫、福岡、広島があり、今後さらに拡充する予定だ。
観光地や飲食店の口コミ、予算の目安もチェックできるほか、各地の特色をコンパクトにまとめた動画もアップ。電気店や免税店などのクーポンが取得でき、アプリから工芸品や家電の購入もできる。旅の予算や目的地などをあらかじめ登録しておけば、自分のプランに合った情報が自動で推薦されるほか、その時々の行動に合わせて最適な情報が表示されるようになっている。
「旅行前の情報収集や旅行プラン作りから、旅行中の周辺検索まで利用されています」
と劉社長。使い勝手の良さでユーザーを獲得しており、日本の中国大使館の公式ウェイボー(中国版ツイッター)でも便利な旅行用アプリの一つとして推薦された。取材を行っているのは中国人のライターや記者で、中国人ユーザーの目線でコンテンツを企画するのが強みだ。訪日中国人旅行者は年間600万人強。その半数を占める個人旅行客「FIT」のうち、80年代と90年代生まれの比率は5割。同社の推計によると、この層の4人に1人が「GoJapan」を利用しているという。
アプリのほかに、メディア事業としてはメッセージアプリのWeChatでの情報発信や、動画サイトでの独自制作の番組の放映などを行っており、アフィリエイト(成果報酬型の広告システム)などの広告収入を得ている。中国の200以上の媒体と提携しており、この関係を使った中国向けプロモーション事業も手掛ける。旅行の達人として有名なライターや俳優など、インフルエンサーを使ったプロモーションもしている。このほか、中国人ビジネスマン向けに日本人の経営哲学やマネジメントに学ぶビジネスツアーも行うなど、展開するサービスは幅広い。