2024年4月20日(土)

補講 北朝鮮入門

2017年10月12日

初登場(?)で公式序列6位、謎の人物「パク・クァンホ」

 今回の人事で公表されたのは新任の政治局委員や候補委員であり、解任された人物についての発表はない。ただ新任者の人数からは、政治局構成員の4分の1程度、各分野の実務を担う党中央委副委員長の半数弱、党中央軍事委員会委員の3分の1程度が交代したと推測できる。昨年5月に開かれた36年ぶりの党大会と、直後に開かれた党中央委第7期第1回全員会議に匹敵する大型人事だ。

 個人として目立つのは、崔龍海(チェ・リョンヘ)党中央委副委員長が党中央軍事委員や党部長に選出され、翌日の中央慶祝大会で金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長に次いでその名が紹介されたことや、金正恩委員長に代わって国連総会で演説を行った李容浩(リ・ヨンホ)外相が政治局委員に昇格したことなどである。

 さらに、パク・クァンホ氏という謎の人物が突然、政治局委員として登場したことは注目に値する。パク・クァンホ氏の名前は、金正恩氏を含めて5人しかいない政治局常務委員の次に紹介された。これまで公式報道にほとんど出てきたことがないのに、いきなり公式序列6位という扱いだ。『労働新聞』では、2016年8月19日付と同年11月27日付に「パク・クァンホ」が出てきているが、目立つ記事ではなく、そもそも同姓同名の別人かもしれない。韓国・世宗研究所の鄭成長統一戦略研究室長は、パク・クァンホ氏について党宣伝扇動部副部長から部長に昇格し、公開の場に出てきたと分析している。

『労働新聞』2017年10月8日付に掲載された「朝鮮労働党中央委員会第7期第2回全員会議公報」。顔写真の上段左がパク・クァンホ氏、下段左から2人目が李容浩外相、右から2人目が金与正氏。

 背景にあるのは、宣伝扇動部長だった金己男(キム・ギナム)氏(88)と最高人民会議議長を長年務めた崔泰福(チェ・テボク)氏(86)という高齢の幹部2人が引退したと見られることだ。権力欲を持たない実務家と評される二人は、金日成時代から指導部に属してきた。その二人が今回、金日成・金正日両氏をまつる錦繍山太陽宮殿への金正恩氏の参拝(10月7日)に同行しつつ、翌日の金正日総書記推戴20周年記念慶祝大会では出席者リストに入らなかった。一夜にして失脚したとは考えづらく、長年の労をねぎらって円満に引退させたということだろう。

 最高人民会議常任委員長として対外的な国家元首のような役割を担ってきた金永南氏もあと数カ月で90歳だ。次回の最高人民会議では、政府人事がこれまで以上に注目される。

米国との戦争シナリオは考慮せず?

 北朝鮮の人事については、党人事を活発化させる一方、重要人物については公開するという「北朝鮮なりの透明性」という特徴が金正日時代の末期から見られるようになった。今回の人事も、大きくはその文脈に則ったものと考えてよいだろう。

 北朝鮮がこの時期に党中央委員会全員会議を開催し、大型人事を断行したことは、ある種の余裕を感じさせる。金正日総書記推戴20周年に合わせたように思われるが、米朝の緊張が高まっている状況にもかかわらず、今回の人事で目立つのは経済実務家であり軍人ではない。外相の政治局委員入りを見ても分かるように通常の党人事だとしか見えない。これだけを見ると、「経済建設と核武力建設の並進路線」のうち、「核武力建設」には目途がついたので経済建設に邁進したい、そのためには外交も動かしたい、といった方針の表れだと考えることができる。

 金正恩氏は9月21日に「国務委員長」名義で米国に対する強い非難声明を出した。トランプ米大統領を「老いぼれ狂人」とこきおろし、「史上最高の超強硬措置」に言及した声明を見て、周辺国では緊張が高まった。しかし、唐突に開催された全員会議で行われた人事を見ると、米国との戦争というシナリオはほとんど考えられていないと思われる。


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