「Cambodia Daily」は、米国人によって創刊された新聞で、知識層向けの批判的調査報道で知られた新聞であったようで、これまで特段の制約なく報道を許されていたらしいです。かつてはシアヌーク殿下が情報源として重宝していたといいます。しかし、当局から630万ドルの追徴課税を通告され、支払い能力がないことから廃刊に追い込まれました。この新聞だけではありません。先月には18のラジオ局が閉鎖され、ヴォイス・オブ・アメリカとラジオ・フリー・アジアとRadio Free Asiaのカンボジア支局も閉鎖されました。
カンボジアでは議会選挙が来年7月に予定されていますが(現在、議席123のうち、人民党68、救国党55)、救国党のケム・ソカはフン・センの唯一の対抗馬と見られています。6月の地方選挙では、人民党が1646のコミューンのうち7割を支配する結果でしたが、救国党も健闘し、支配するコミューンの数を10倍以上に伸ばしました。得票率では人民党の51%に対し46%を獲得した模様です。フン・センは、この地方選挙の結果を見て来年の選挙の帰趨に不安を募らせているようです。このことが、最近になって彼が野党、メディア、シビル・ソサエティの抑圧を強めている背景だということで大方の見方は一致しています。ケム・ソカが有罪となったことで、救国党が解党に追い込まれる危険があるようです。
カンボジア駐在の米国大使は、ケム・ソカとの共謀、米国による内政干渉を否定し、最近の米国に対する非難は全て虚偽であると述べ、更に「もし今日選挙が行われたなら、選挙監視オブザーバーは誰一人として自由で公正でカンボジア国民の意思を反映したものとは保証しないであろう」と、異例と思える発言をしています。
この社説は、フン・センが米国はじめ西側諸国に気兼ねすることなく、権威主義的性向の赴くままに振舞うことが可能なのは、中国をその後ろ盾に得ているからだと言います。カンボジアは中国の属国と化しているとまで言っています。それが実態だと思われます。フン・センは中国を「最も信頼する友」と呼んだことがあります。ここ3代の中国国家主席は、全員カンボジアを訪問しています。中国の影響力の源泉はカネにあります。中国の直接投資は他国の直接投資の総額を凌駕していると見られます。そうであれば、遺憾ながら、カンボジアの現状に我々として打てる手は基本的にありません。
カンボジアは既に失われました。その責任は西側諸国にもあると上記社説は言いますが、カネという実弾がなければ、勝負になりません。日本はかつて長年にわたりカンボジア和平に多大の協力を成し、カネはもとより、汗をかき血まで流したのであり、大きな影響力を有していたはずですが、昨今の状況は、はっきりしません。
上記社説は、「腐敗した芳しくない政権を支持する中国のやり方は長続きはせず、いずれ裏目に出る」といいますが、それがどこまで確信を持っていえることなのか疑問です。それよりも、第二、第三のカンボジアを作らないようにすべきでしょう。フィリピン、マレーシア、タイに言及がありますが、ラオスは既にカンボジアに似た状況ではないかと危惧されます。当面、ミャンマーを上手に扱い、ロヒンギャ問題のために中国の懐に追い遣ることのないようにすることが重要と思われます。
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