2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年12月18日

 この社説はサウジのムハンマド皇太子のレバノン介入を批判していますが、当然の批判でしょう。何のためにサウジがいまレバノンに介入しているのか、介入でどういう成果を見込んでいるのか、よくわかりません。

 11月12日、レバノンのハリリ首相はサウジの首都リヤドで突然、身の安全が保てないとして、レバノンの首相を辞任すると発表しました。一国の首相が他国で突如辞任を表明するなど、異例中の異例です。サウジ側が辞任を勧めたとされていますが、レバノンのアウン大統領は、ハリリ首相は行動の自由を奪われていると述べています。奇妙な出来事です。

 ハリリ首相の家は父親の代からサウジに近く、イランの手先ともいうべきヒズボラに対抗してきました。そのハリリを辞任させて、サウジの皇太子MBSは何をしようとしているのでしょうか。レバノンを再び内戦状況にして、イランの勢力をレバノンから駆逐しようとしているのなら、自分の力に余ることをしようとしていると言わざるを得ません。孫子の兵法に「敵を知り、己を知れば百戦して危うからず」とありますが、MBSは自分の力を知らず、突き進んでいるように見えます。

 内政面でも閣僚や有力王子を汚職の疑いで逮捕し、拘禁しています。自分の権力基盤を固めているのでしょうが、ここにも性急さ、乱暴さ、きちんとした見通しの欠如が見えます。

 サウジのムハンマド皇太子は、内外ともに自ら作り出した危機に圧倒され、サウジを不安定にする可能性が大きくなっています。成り行きを見るしか手がありませんが、日本企業も事態の急変の可能性を念頭に置いていく必要があるでしょう。革命と戦争は双子のようなもので、歴史を見れば、ともに、あるいは前後して起こることが多いです。

 サウジとイランの軍事バランスは、国防費ではサウジがイランの3倍ですが、兵力はサウジが13万くらいに対し、イランは53万くらいです。空軍の装備面では、サウジが勝ると思われますが、その他の面ではイランがずっと強いとみられています。

  
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