軍事情報包括保護協定をめぐる政府、
マスコミ、市民団体のダブルスタンダード
昨年、朴槿恵大統領に対する弾劾訴追案が可決された12月9日を前後して韓国で起きた大規模な反政府デモは、日本でも大きな話題となった。都心の広場を埋め尽くした数十万の市民。彼らの政府批判と抵抗の意味で持ち上げた数十万の「ロウソク」の映像は、日本にも頻繁に紹介され、視聴者たちの脳裏に強烈な印象を残しただろう。そして、そのロウソクは、今年3月に憲法裁判所の大統領弾劾と政権交代という歴史的事件の導火線となった。
その時、韓国国民が怒った理由は何だったのか。彼らが怒ったのは、朴槿恵政権の「失政」だった。そして、その具体的な例として側近の国政介入、米国のサードミサイル配備などとともに挙げられたのが、朴槿恵政府が昨年11月に日本と締結した軍事情報包括保護協定(GSOMIA)であった。
当時野党(現与党の「共に民主党」)は、「軍事主権まで売り飛ばす売国政権」、「これで弾劾の理由がもう一つ増えた」と批判し、他の野党、国民の党は「慰安婦、歴史教科書の問題などが解決されていない状態でそんな屈辱的な協定が締結されるのは、民族の自尊心を売った蛮行」と朴槿恵政権を攻撃した。
メディアも批判一色だった。ハンギョレ新聞は社説で「日本の軍事大国化と歴史修正主義を容認する意味がある」と猛非難し、京郷新聞は「統治不能状態に陥った大統領府が国民の関心をそらすために外交安保事案を政略的に悪用している」と評価した。
市民団体も黙ってはいなかった。朴槿恵退陣を叫びながら、市内の光化門広場に集まったロウソクデモ隊は、大型旭日旗を裂くパフォーマンスを行いながら協定締結に反対し、慰安婦支援活動をする挺対協と平和ナビ(蝶)、そして慰安婦像を守る大学生団体などは「日本の再武装と集団的自衛権行使に翼をつけてあげようとしている」との共同声明を発表し朴槿恵政権を激しく非難した。
彼らの表現と声のトーンは違ったが、主張は同じだった。軍事情報包括保護協定は、軍事機密を日本と共有し、日本の軍事大国化を促す朴槿恵政府の親日的で、売国的行為であるため、それは廃棄されるべきであり、朴槿恵は弾劾されるべきだというものだった。その中で反政府デモに出た市民団体は正式名称である「軍事情報包括保護協定」の代わりに「日米韓軍事同盟」という言葉を使いながら、興奮状態の国民を扇動した。
それからちょうど1年が経った今、彼らが望んだ通り、朴槿恵は弾劾され、ロウソクデモを主導した野党の候補文在寅が、今年5月に大統領に当選した。では、果たしてその後、軍事情報包括保護協定はどうなったのか?