2024年11月21日(木)

WEDGE REPORT

2017年7月18日

 7月2日、韓国の文在寅大統領が3泊5日の米国訪問を終え韓国に帰国した。出発前の文在寅大統領には「課題」が山積していた。朝鮮半島において米国が最も敏感に反応する北核問題、そして米国だけではなく、中・日も注目するTHAADミサイル配置問題、米国が再協議を求めているFTAがそれである。

(01010011portfoliolab/iStock)

 どれも韓米関係に大きな影響を及ぼす重要な案件であり、これらの問題に比べたら6月24日に韓国の大法院(最高裁判所)が駐韓米大使館を囲むデモ行進を許可して、米大使館側の抗議を受けたことなどは優先順位から見ると後順位の問題なのかもしれない。

 文大統領の訪米に対して韓国マスコミは「成功」と評価している。大きな成果といえるようなものはなく、世界にアピールできるような共同声明を発表したわけではないが、韓米同盟の絆を再確認し、トランプ政権とも友好関係を築いていく第一歩を踏み出したという評価を得ているのだ。

 しかし、大統領が無難に米国訪問をこなしたとの評価を受けている一方、今回の訪米で韓国内から失笑を買った人たちがいる。それは大統領を同伴取材した「韓国マスコミ」である。

乱気流で激しく揺れる飛行機の中で
機長の着席指示とベルト着用サインを無視した大統領

 今回の訪米は大統領就任後の初めての海外訪問であり、相次ぐ北朝鮮のミサイル実験で緊迫した状況の中で行われた。韓国マスコミの関心がいつも以上に高いのは当然で、120人に及ぶ記者たちが大統領に同行し密着取材を行った。問題が起きたのは6月28日韓国を離れ、米国に向かう機内で行った記者との懇談会の場だ。

 飛行中の機内で大統領は、座席に座っている記者たちに向って、立ったままマイクを握って話をしていた。その時突然、機体が大きく揺れ始める。乱気流にぶつかったのだ。隣にいた補佐官たちは椅子や壁で体を支え、かろうじて立っていた。

 機長が着席を指示する機内放送を流し、同時に座席のシートベルトのサインが点灯した。そこで警護室長が文大統領に着席を勧め、記者たちには「ここまでにする」と了解を求めたが、文大統領は機長の指示と警護室長の進言を聞かずに「あと1分だけ話す」と立ったまま話を続けたという。

 言うまでもなく、飛行機の中で機長や乗務員の指示は絶対的だ。数百人の命に関わる問題だからだ。文大統領の行動は擁護しようのない「過ち」だ。実際、ネット上には「手本にならなければ大統領がこれでいいのか」「安全を無視して起きたセウォル号沈没事故をもう忘れたのか」といった失望や批判の声が多く見られた。客観的に見れば明らかに軽率な行動であった。しかし、韓国マスコミの目にはそれが「カッコ良く」映ったようだ。

危険行為を「揺れる機体内でも堂々とした大統領」と
ゴマをする韓国マスコミ

 呆れたことに韓国のマスコミは大統領の危険行為を「揺れる機内でも動揺せず」「特殊部隊時代に鍛えた冷静さ」と褒め称えた。それも、一部のマスコミではなく大部分のマスコミによる「大統領称賛」の大合唱が始まったのだ。実際に韓国マスコミが報じた記事の見出しは次のようなものだ。

「乱気流に驚く記者たちと参謀たちの表情とは異なって文大統領の表情は平然としていた」(中央日報)

「特殊部隊時代の飛行経験で鍛えられた文大統領の冷静沈着な姿」(韓国日報)

「特殊部隊の雄姿。文大統領、乱気流に揺れても堂々」(国民日報)

「激しい乱気流にも屈しない文大統領」(ソウル新聞)

「関係者、『大統領の姿に外憂内剛の一面を見た』」 (連合ニュース)

 文在寅大統領就任以後、大統領の熱狂的な支持者たちが大統領や政権に批判的な記者たちを攻撃する現象が起きていることについては前回の拙稿でも紹介した(関連記事 :「モンスター化する文在寅支持者たち、味方まで跪かせる『狂気』」) 。

 そのような群衆の攻撃を恐れたのだろうか。それとも、何があっても政権をプラスイメージで国民に伝えたかったのだろうか。庇護や言い訳を超えて、あまりにも露骨な政権賛美に走るマスコミを見て言葉を失った。

 私個人の感想といえば、大統領の軽率さに失望したといったところだ。当然、擁護するようなことではないが、だからといってしつこく攻撃したり、バッシングに走るようなことでもないという程度だ。しかし、マスコミの「ゴマすり」には読者の一人として絶望感さえ覚えるほどだ。小学生でもここまで厚顔無恥な記事は書かないだろう。


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