2024年4月25日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2018年2月15日

 おそらくWEDGE Infinityの主要な読者層である40代の男性と私は年齢的に近いと思うのですが、いい大人にもなると今回のフィギュアスケートも含め、新しい物事、いままで知らなかった趣味や芸術に対して腰が引けてしまうのは痛いほどわかります。プライドも高くなり、いまさらなにも知らないところからスタートするのも恥ずかしい、億劫だとつい思ってしまいがちですよね。だから、誰かに見方などの教えを請うのではなく、フィギュアの演技を観て、きれいなものはきれい、カッコイイものはカッコイイというプリミティブな感動を取り戻す楽しさを重視してもいいんじゃないかと。

――私も40歳ですが、新しいものになかなかチャレンジできません。

高山:そうですよね。私も先日、若い人からスノーボードに誘われたんですが、0.2秒で断ってしまいました(笑)。健康面の理由もありますが、これが25歳くらいなら「やってみようかな」という気持ちになっていたかもしれないなと考えると、肉体以上に精神の老化を切実に感じましたね。

 私は、スポーツ以外にも映画を観るのが好きなんですが、なかでもヌーベルバーグの『突然炎のごとく』や『死刑台のエレベーター』などに出演し活躍した女優のジャンヌ・モローさんをリスペクトしています。彼女が、2002年に来日した際に、幸運なことに1対1で1時間インタビューできることになったんです。そこで当時74歳だった彼女に「あなたのように人生の長い時間輝くために、一番必要なことはなんですか?」と聞くと、彼女は間髪入れずに「好奇心」と答えた。そして「好奇心を分かち合える人の存在」だとも。

 肉体の老化は仕方がないにしても、精神の老化を止めるには彼女が言うように新しいことへ対する好奇心って本当に大切だと思うんですよね。

――2月16日から平昌五輪でフィギュアスケート男子シングルが行われますが、誰に注目というのはありますか?

高山:私は、フィギュアスケートそのもの、それに打ち込んでいる選手全員を本当にリスペクトしています。そのなかで、毎年倍々ゲームのように新しい「観る喜び」を与えてくれるのが羽生結弦選手。それで書き始めたのが今回の本です。ただ、タイトルに羽生結弦選手の名前は入っていますが、彼一人に絞ったつもりはありません。羽生選手以外の選手にもかなりページを割いています。ただ、好きなスケーター全員を好きなだけ書こうと思ったら、それこそ新書にもかかわらず、広辞苑くらいの厚さになってしまう(笑)。

 だから、オリンピックに出場する選手の誰に注目してほしいというのは難しい。先ほどのネックレスの例で言うならば、ハリー・ウィンストンのネックレスも、カルティエのネックレスも、ブシュロンのネックレスも……とどのネックレスにも目を奪われる。だからあげればキリがない。どのネックレスが好きかも人によって違いますが、私は人の好みにまで立ち入るつもりはないですし。

――選手は人生をかけて挑むわけですからね。

高山:実は、私は格闘家の友人が多く、たまに招待してもらうので、観に行くことがあるんです。ルールもいまいちわからず、ましてやジャッジたちがどうやって採点いるかなんてまったくわからない。でも、彼らの熱いものを感じます。要するに、生き様が発光している様を観たい気持ちがあるんでしょうね。生き様を発光させられる人なんてそうはいません。スポーツ選手のなかでも選ばれし人たちがオリンピック選手になる。そういったフィギュアスケーターたちの生き様をぜひ観てもらい。

 またもう中年だから新しいスポーツを観るのは遅いと思っている方がいれば、もったいないことだと思います。新しい喜びや感動に対し、新鮮で謙虚な気持ちでいることは、新しいスポーツを好きになること以上に大事なのかもしれません。

 フィギュアスケートを観て、合わないと思うならそれでいいと思うんです。人それぞれ好き嫌いがあって、合う合わないがあって当然ですから。ただ、ほんのすこしでも面白いと思う気持ちがあるのならば、そのプリミティブな感情にフタをする必要はないし、その感情に少しでもポジティブな影響を、この本が与えられたのだとしたら万々歳かなという気がしますね。ただし、あくまでも「私のツボ」なんですけどね。

――早くも3刷りとかなり売れていると聞いていますが、反響はどうですか?

高山:この本を読みながら、映像を見返すと新しい発見があるというご意見や、いままで2Dで見えていたものが、この本を読んで3Dに見えるというご意見をいただき本当に嬉しいです。私の本が、読者の方々がお持ちの「好奇心」と、ちょっとだけでも何かを分かち合う時間が持てたのかな、と思える……。それが本当に幸せです。
 

  
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