大統領はまた、フロリダ州の銃乱射事件をきっかけに高まる銃規制の動きに対しても、与党共和党が驚くような対応を見せている。これまでトランプ氏は銃の規制には消極的だったが、自動小銃と同様の連射を可能にする「バンプ・ストック」の販売禁止を検討するよう司法省に指示したほか、銃購入の最低年齢の引き上げなど規制に前向きな姿勢を示した。
これには有力ロビー団体の「全米ライフル協会」(NRA)が裏切られたと猛反発、連日のように大統領に圧力を掛けている。しかし、大統領は銃規制に反対する共和党上院議員に「NRAに媚びているのか」などとたしなめるなど、この点ではまさに銃規制をしようとした前任のオバマ氏を彷彿させるような言動ぶりだ。
なぜ驚くべき行動を取っているのか
トランプ氏はなぜこのような唐突感漂う意外性ある行動を取っているのだろうか。元々彼の真骨頂は自ら認めるように“不確実性”だ。相手側に予測の付かないような言動に出るのがトランプ流である。「彼には既存の政治をぶち壊したという自負があり、今回も窮状を挽回するため周囲を驚かせるような手法を使った」(米専門家)のではないか。
トランプ氏を取り巻く環境は厳しさを増している。モラー特別検察官によるロシアゲート捜査の包囲網が次第に狭まり、同氏の怒りと不安は最近とみに高まっていた。大統領を守らなければならない立場にありながら、捜査指揮から自ら身を引いたセッションズ司法長官への憤激は特に強い。その上、信頼する娘婿のクシュナー上級顧問の最高機密へのアクセス権のはく奪、ビジネスとの利益相反問題などがクローズアップされているのも頭痛のタネだ。
大統領が部下に当たり散らすケースが増え、ホワイトハウス内の士気は低下、人事局長やヒックス広報部長らの相次ぐ辞任が混乱に拍車を掛けた。安全保障政策の要であるマクマスター大統領補佐官の4月更迭説が流れたことも政権内に暗い影を落とした。政権の1年目の離職率では、トランプ政権が34%と断トツに高い。
米メディアによると、このところのトランプ氏のイライラと孤立感は募り、寝室で3台のテレビ相手にケーブルニュースのチェックに没頭する毎日。友人らは同氏の精神状態を憂慮、ワシントン・ポスト紙によると、友人の1人はそのもようを“本物の狂気”と形容した、という。
同氏は自身を「安定した天才」と自賛しているが、大統領が冷静で分別あるかについては米国民の70%がそう思っていない。情緒不安定と考えている人の方がかなり多いのだ。同紙は特に、トランプ氏が夜間と早朝に不安定になる場合が多いと指摘、自分の名前の綴りを間違えたコメディアンを早朝の5時42分にツイッターで罵倒したケースもある。
トランプ氏は自身がどう見られ、ホワイトハウスが混乱状態にあることを十分知っており、政権を浮揚させるため自分を大統領に押し上げた「意外性や不確実性」を発揮する必要があると判断、関税と銃規制の問題で敢えて突っ走っているのではないか、と見るのが腹に落ちる。