世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年3月28日

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 トランプ大統領が昨年1月の就任直後TPPからの離脱を表明したため、残り11か国(シンガポール・チリ・ニュージーランド・ブルネイ・オーストラリア・ベトナム・ペルー・マレーシア・カナダ・メキシコ・日本)の枠組みで協議、昨年11月に大筋合意していたが、3月8日に無事に署名された。TPP11により、人口5億人、世界のGDPの約13%、貿易総額の15%をカバーする自由貿易圏ができる。TPP11の意義は、上記閣僚声明が端的に指摘している通り、アジア太平洋地域における貿易・投資及・経済成長の促進、新たな機会の創出、そして、効果的で、ルールに基づく、透明性のある通商システムへ共通のコミットメントである。

 米国は、TPPからの離脱により、多くを失っている。ピーターソン国際研究所が昨年10月に発表したレポートによれば、米国を含むオリジナルのTPPの下では、米国の所得は毎年GDPの0.5%にあたる1310億ドル増加していたはずである。しかし、TPP11の下では、その増加分が失われるのみならず、米企業がTPP11の市場で不利な競争を強いられることで、年間20億ドルがさらに失われることになる。

 また、TPPは、投資先の国が投資企業に対し技術移転等を要求することの禁止、ソースコード移転・アクセス要求の禁止、サーバー現地化要求の禁止、非商業的援助により他の締約国の利益に悪影響を及ぼすことの禁止など、中国の悪しき振る舞いに反対するような内容が多く含まれている。米国がTPPに参加し、アジア太平洋における自由貿易のルールとしてより強固なものとなっていれば、対中牽制の上でもさらに効果があったはずであるが、米国の離脱はそうした効果も弱めてしまった。

 トランプ政権は、二国間協定の方が交渉上の強い梃子を持つことができるので多国間協定よりも好ましい、と言っているが、相手国はなかなか見つからず、進展していないようである。それは当然であろう。身勝手な理由で二国間協定を選好するような政権とは、信頼感をもって交渉できない。また、トランプは、2国間の貿易赤字を無くすことに固執しているが、それは保護貿易を招き、ウィン・ウィンということにはならない。

 米国内でも、農業・畜産業者や経済界からTPP復帰を求める声が増えているようである。そういう声を意識してか、トランプは、時折TPPへの復帰を示唆する発言をしているが、その際にも「TPPがもっとよい協定になるならば」という留保をつけることを忘れていない。茂木経済産業大臣は、署名の際の記者会見で「TPPは極めてハイスタンダードであると同時に各国の様々な利益を調節したバランスの取れた、いわばガラス細工のような協定であり、そこの中で一部だけを取り出して再交渉をする、更には修正をするということは極めて困難だ」と述べている。その通りであろう。米国が関心を持つことは歓迎するとして、何よりもTPP11の発効を急ぐべきであるし、そうなるであろう。

 TPPに関心を持つ重要な国の一つに台湾がある。台湾を中国の圧力から守るため、是非とも早期に加盟できるよう研究、交渉をしていくことが望まれる。

 なお、上記閣僚声明は、日本が代表して発表した。困難な交渉を迅速にまとめるための日本の努力が高く評価され、各国の敬意を集めたということであろう。

  
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