2024年12月3日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年5月11日

 トランプ大統領は、今年1月のダボス会議に際してCNBCとのインタビューでTPPへの復帰検討を示唆して以降、折に触れてTPP復帰を口にするようになった。しかし、必ず「より良い条件になれば」および「ただし2国間協定の方を好む」との文言とセットになっている。また、トランプ政権にとり貿易赤字の削減は至上命題である。

(iStock.com/falun/ddub3429/trendobjects/ptasha)

 4月の日米首脳会談でも、安倍総理が「TPPが最善」としたのに対し、トランプ大統領は「拒否できないような良い条件でなければTPPには復帰しない」、「2国間協定のほうが好ましい」などと主張した。貿易赤字については、トランプは、「今のところ米国には年間少なくとも690億ドルの対日貿易赤字がある。日本からは何百万台の車が輸出されるが、実質的に関税ゼロである。しかし、貿易障壁があるため、米国からはそんなに多くの製品は輸出していない」と、日本を強く非難した。

 首脳会談の結果、日本側が経済産業大臣、米側が通商代表からなる「自由で公正かつ相互主義的な貿易取引の協議」を創設することで合意している。日本政府は同協議について、日米FTAの予備協議ではないと言っているので、日米FTAが俄かに議題になることはないと思われるが、米側の考えの手掛かりとなるものはある。それは、今年3月の米韓FTA見直し及びそれとセットになっている合意である。

 米韓FTAは、2012年3月に発効、5年以内に95%の工業製品等の関税を撤廃するとしていた。今回の見直し対象の主眼となった自動車については、米国側は2.5%の関税を5年後に撤廃、韓国側は8%を4%に低減した後、5年後に全廃するとしていた。見直しにより、韓国に輸出される米国車(乗用車とトラック)のうち、韓国の安全基準を満たさなくてよい製品の台数がメーカー当たり2万5000台 から5万台 に倍増となった。また、韓国製トラックの対米輸出に課す25%の関税の期限を、現行の2021 年から2041 年まで延長することとなった。   

 また、FTAの条項そのものではないが、韓国は、鉄鋼・アルミ製品の対米輸出量を2015~17年の平均の70%以下に抑制することと引き換えに、鉄鋼・アルミの関税上乗せを免除された。こういう数量制限は、WTOの精神に反する。米国は、管理貿易の手段に訴えてでも貿易赤字を削減しようとしている。

 同時に付帯協定として導入が合意された、韓国のウォン安誘導を禁じる、為替条項にも注目しなければならない。同条項につき米当局者は、競争的な通貨切り下げを禁じる、金融政策の透明性と説明責任を約束する、などとしている。しかし、付帯協定であれFTAに為替条項が導入されるのは類例のないことである。恣意的な適用が懸念される。

 「自由で公正かつ相互主義的な貿易取引の協議」では、数量制限を含む管理貿易的手法による貿易赤字削減、為替条項の導入に向けた圧力が予測される。日本は、米財務省の為替監視対象国に指定されている。

 米国は、TPP交渉においても、自動車業界の要求を受け、為替条項を求めた経緯がある。しかし、TPPにおいては為替条項は拒否された。仮に今後米国がTPP復帰の条件として為替条項などを求めても、当然受け入れられない。

 タイが最近TPP11への参加を表明したことは朗報である。参加国が増えるほど、米国に対しTPP復帰の圧力となるし、米国が復帰した場合に条件闘争がしにくくなる。2016年1月19日の安倍総理の国会答弁によれば、タイのほか、インドネシア、韓国、フィリピン、台湾がTPPに関心を示している。こうした国々をどれだけ取り込めるか、日本の手腕が問われることになろう。

  
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