2024年12月8日(日)

ネルソン・コラム From ワシントンD.C.

2011年5月17日

 日米関係を扱う専門家たちが、過去2年間の日本の民主党政権と新旧首相から伝わってくる混乱したメッセージに何度も失望させられたのは、秘密でも何でもない。

 「民主党のゴッドファーザー」である小沢一郎氏がいまだに政界の重鎮なのかどうかがはっきりせず、なぜ次第に多くの民主党議員が、菅直人首相の追い落としを図る最新の試みとして小沢氏が2~3週間前に仕掛けた「中傷」文に加わろうとするのか理解に苦しむ状況では、事態は一向に上向かない。

 悲しいかな、民主主義国では、愛国心か政治かという選択肢がある場合、毎回勝つのがどちらかはお分かりだろう。言うまでもなく、ワシントンでも状況は同じで、日米双方が同じ不利益を被っている。

 今月のコラムでは、「混乱」を生む2つの主な原因について見ていきたい。1つ目は、首相が実際に日本の原子力の将来をどうする気なのか、という問題だ(福島の大惨事を受け、米国は原子力の問題を巡ってちょっとした存亡の危機に直面しているため、これは米国にとって非常に重要な問題だ)。

 2つ目は、民主党の首相(複数形だ)が普天間基地の問題を解決すると約束する時に、一体何を意味しているのか、という以前から続く混乱だ。この困惑を唯一凌ぐ感情は、首相が何を意味していようが、実は大した違いはないことに気づかされた時の苛立ちだ。沖縄の政治情勢がなお敵対的なため、米国が満足できるような解決策はどれも、沖縄県民には到底受け入れられないように思えるからだ。

普天間棚上げは、つまり米国の不戦勝

 今月のコラムを書き始める数日前に、この問題が浮き彫りになった。連立政権のメンバーである下地幹郎議員と、安倍晋三元首相のスポークスマンを務めた塩崎恭久議員がワシントンのスティムソンセンターを訪れ、日米戦略同盟の重要性に関する出色の討論に参加した時のことだ。

 両議員は日米両国が直面する大きな課題について、楽観的で、深遠かつ高度な理解を示した。また、日米同盟の多くの面について朗報があった。にもかかわらず、残念なことに、質疑応答のセッションでは、普天間問題が近い将来解決される見込みが全くないばかりか、どちらの議員も問題解決に向けた有益な提案を一切持ち合わせていないことが痛ましいほど明白になった。

 だが、痛みを和らげようとした下地氏の努力は認めよう。同氏は、有望な解決策が議題に上がっていない以上、特に日米共通の利益が絡むより大きな問題に対処するために、普天間に関する議論を例えば3年間ほど棚上げした方が関係者全員のためではないか、と正直に認めたのだ。

 下地サン曰く、彼はカート・キャンベル国務次官補と会談した時に、この提案を持ち出したのだという。我々は、普段は多弁な話術者であるキャンベル氏がどう答えたか尋ねてみた。

 するとその時、太平洋両岸の2世代の日米関係担当者がよく知る国務省日本部長代理のラスト・デミング氏(通称ラスティー)が身を乗り出してきて、「クリス、カートは何も言わなかったんだ!」とささやいた。

 「それは賢明だな」と筆者が言うと、ラスティーは含み笑いをして見せた。我々は、この質問が意図せずしてキャンベル氏に突きつける罠を重々承知していた。ビル・クリントン元大統領が冗談を言っていたように、もしキャンベル氏が礼儀正しい「日本流のイエス」でも口にしようものなら、東京のメディアが「米国政府、普天間移設の3年間先送りを容認へ!」という見出しを打つリスクは明らかだからだ。

 キャンベル氏の職務継続にとっては、それが恐らく命取りになることは言うまでもないだろう・・・。

 だが、先日、スティムソンの討論参加者と聴衆の双方が、恐らく気を使うあまり口にしなかった本当の皮肉は、今の状況が既に「先送り」だということだ。だって、もう15年くらい経ち、まだ続いているわけでしょう?

 つまり、実は米国防総省の強硬派にとって、現状は不戦勝なのである。どんな解決策も現状通りの普天間基地という今の「解決策」に匹敵するものではなく、おかげで米軍が絶対に必要だと主張する海兵隊の航空作戦を継続できるのだから。

⇒次ページ 「普天間代替案は終わり」 ベテラン上院議員がゲーツ長官に警告


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