対談

2018年8月1日

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五十嵐:中澤秀雄先生(中央大学法学部政治学科教授)は割と近いスタンスかなと思いますが、どうでしょう?

富永:そうですね、かなり近いかなと思います。新潟県の巻町原発をめぐる住民運動を長く研究されてきた先生ですが、ご著書(『住民投票運動とローカルレジーム』ハーベスト社)のあとがきで、「『君は原発に賛成なのか反対なのか』と迫られたこともある。そのとき私は、賛成でも反対でもないと返答した」という記述をされていますね。だからといって簡単に「中立」ぶるわけではなく、「取材をしながら、自分の立場をどう表明すればよいのか、調査倫理をどう考えるのか、どこまで知らないふりをしてよいのか」(同書)といった点で常に葛藤していたことが、あとがきや本文中からわかって、主題こそ大きく異なりますがとても共感しました。

五十嵐:若手でも社会運動の研究をされている社会学者はいるのではないかと思うのですが。

富永:そこは若手ならではのジレンマがあるように思います。運動にかかわらず、何かを調査して研究するのは、短期的には対象に対する搾取ですから、何か貢献しなければならないということになる。若手研究者は他に供出できる資源もないので、社会運動に参与する。もちろんそれ自体悪いことでは全くないですし、研究対象として選ぶのは自らの実存を賭けられる、または理念的に賛同できる運動だからでしょう。でも、やっているうちに見えなくなってしまうもの、伝えられなくなることだってある。……これは若手に限らずですが、安倍政権に対して、やや過激な表現を用いて批判的なことを言っている教員のSNSなんかを学生が見ると、忖度しちゃうんじゃないかと思うんですよ。この先生のテストには左派的なこと書いておこう、とか。

五十嵐:めっちゃわかる(笑)。やっぱりそうやって色分けされていくんですよね。こんなに自分の考えを簡単に表明できるツールはこれまでなかったし、それはつまり強力に色分けされていくツールでもある。言うべきことは言わなきゃいけないとは思いますが、この敵味方に色分けされていくことの意味はやはりもう少し真剣に考えないといけない。すごく軽い気持ちで、共感したものはリツイートしたくもなるし、「いいね」もクリックしたくなる。さらにそれを増幅させるような煽りも入れたくなる。SNSって本来共感的なコミュニケーションや気晴らしにやるものだと僕は思っているから、そうやりたくなる、それはわかるんだけど、それをしちゃうと失うものも大きいですよね。

富永:教員になったとき、学生には政治を議論できない孤立感があるんだな、とすごく感じたんです。あと感じたのは、「中立でいたい」という意識がゆえの「偏り」に対する鋭敏さでしょうか。「○○先生は左派的なことをすごく言うんですけど、それにあわせた回答を用意した方がいいですか」って、「左派運動研究者の富永」に聞いてくるんですよね(笑)。それとこれとは関係ないんだ、学業の達成度は、間接的には学問が内包するイデオロギーと関係あるかもしれないが、それで成績なんかを決めるわけない、って言いたいけど、言えない。

五十嵐:実際にそういう評価をする教員もいるんですよね。驚くべきことにね。

富永:学生は自分の考えではなく「正解」を書きたいんですよね。それを考えたとき、「そんなことは関係ない」とは簡単に言えないな、と悩んでしまったんです。

五十嵐:学生もテストやレポートでは忖度するでしょうけど、それをずっとやるのはきついからと離れていく人と、逆に強烈にその教員にのめり込む人に分かれていく。こういうことの繰り返しが、つまりは陣営化なんですよね。

富永:もちろん左派だけでなく、右派でもそういうことはあるわけで。ただ、そんなに誰しも「どちら」と簡単に言えない立場にあるのではないかな、そこを知りたいという気持ちはあります。

後編につづく)

五十嵐泰正(いがらし・やすまさ)
1974年千葉県柏市生まれ。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程単位取得退学。筑波大学大学院人文社会系准教授。専門は都市社会学・国際移動論。今も暮らす柏市で、音楽や手づくり市などのイベントを行う団体「ストリート・ブレイカーズ」の代表として、実践的にまちづくりに関わっている。編著書に『みんなで決めた「安心」のかたち』亜紀書房、『常磐線中心主義』河出書房新社など。
富永京子(とみなが・きょうこ)
1986年生まれ。立命館大学産業社会学部准教授、シノドス国際社会動向研究所理事。専攻は社会運動論・国際社会学。北海道大学経済学部卒。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程・博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2015年より現職。著書に『社会運動のサブカルチャー化 G8サミット抗議行動の経験分析』せりか書房。

  
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