2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年10月3日

 しかし、この提言には疑問がある。まず、今のイラクの惨状の原因が主としてイランにあるわけではない。なるほどイランがシーア派間の対立の一つの原因であることは間違いない。イランは総選挙前に、サドルがイラクを統治するのを容認しないと言ったと報じられている。選挙で一位となったサドルの政党連合が組閣できないでいる一つの原因はイランかもしれない。しかし、イラクで大規模デモが起きているのは、水、電力といった生活の基礎インフラが極端に不足していること、イラク政治で腐敗が蔓延していることなどに対する国民の不満の爆発であり、これらの問題がすべてイランに起因するとは考えられない。

 さらに、ケーガン夫妻は「バスラを含むイラク南部で、米国がアラブ湾岸諸国と協力して、水、電力、医療などの人道支援を行えば、それは緊張と暴力を弱め、イラクの内戦の防止につながり得る」と言っているが、イラクの危機の根は深く、イラク南部での人道支援がその回避に貢献できるが疑問である。

 イラクの問題は、結局はイラク自らで対処するしかない。

 その点、Foreign Affairs誌が9月13日付けで、「最後の望みはシスタニ師にある」との電子版専用の論説(”Iraq’s Next War”)を掲載しているのは注目される。シスタニ師はシーア派の最高位聖職者(大アヤトラ)で、シーア派信者に絶大な影響力を持つという。2014年ISがバグダッドに迫る勢いを示していた時、国民に全力でISに対抗するよう呼びかけている。論説によればシスタニ師は2003年以来何度も派閥間の抗争の鎮圧に貢献してきたとのことである。シスタニ師は広範な社会的、宗教的ネットワークをもっており、それがより穏健な政治家や市民社会指導者を支援できれば、国内の深刻な分裂の修復につながるかもしれないとのことである。シスタニ師が積極的な役割を果たすことに望みがかかっていると言えるだろう。
 

  
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