腰が引ける日本の対応
この問題に対するわが国の対応はどうか。
菅義偉官房長官は10月16日の記者会見で、「トルコにおいて捜査中なので日本政府としてコメントするのは差し控えたい」「早期の真相解明、公正で透明性のある解決を期待している」と簡単に答えた。「引き続き報道の自由、人道的見地から事態の推移を注視していく」と付け加えたのが唯一の救いだったが、素っ気ないことこのうえなく、関わり合いになるのを避けたいという姿勢があからさまににじんでいた。言葉の問題だが、せめて「報道の自由、人道的見地…」のくだりを先に持ってきていたら、わずかではあるが異なった印象を与えていただろう。
河野太郎外相は何のコメントもしていないし、外交ルートでサウジ側に日本の懸念を伝えたという話も聞こえてこない。
この問題に限らず、日本は、報道、表現の自由、人権問題などに対しては、ことさら敏感さを欠くように思える。
ごく最近、10月10日に北海道洞爺湖で開かれた日中与党協議会で中国共産党の宋濤中央対外連絡部長が「与党は民意と世論をリードする役割を持っている」「真実を報道するよう働きかけ、正しくない報道は訂正してもらう」などメディア規制とも受け取れる発言をした。さすがに菅官房長官は記者会見で「報道の自由は国際社会での普遍的価値だ」と反論の姿勢を示したが、与党協議会の場では、宋氏に真っ向から異論を唱え、議論されることはなかった。
今年3月、英国内でロシアの元情報部員父娘が神経剤で襲撃された事件が起きた。この時も、日本はロシアを非難こそしたものの、外交官追放など欧州各国がとった強い手段への同調は見送った。それどころか、日本が行ったことは各国と正反対だった。各国によるロシア外交官追放が盛んに行われている3月20日、あろうことかロシアのラブロフ外相を東京に招いて河野外相との間で外相会談を行った。それだけではない。この日は、ラブロフ氏の誕生日とあって昼食会でバースデーケーキまで振る舞うおまけまでつけた。
各国にどう映ったか。メイ英首相は、その前日、安倍晋三首相に電話で経緯を説明、間接的に協力を求めていただけに失望しただろうことは想像に難くない。