公立中学が挑む教育改革

2018年10月30日

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多田慎介 (ただ・しんすけ)

ライター

1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。著書に『「目的思考」で学びが変わる 千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦』(ウェッジ)。

その仕組みは「大人の都合」になっていないか

 2017年度に麹町中学校へ赴任した主幹教諭の関根奈美江氏は、定期テスト廃止の方針を聞かされた当初は他の教諭とともに驚いた。しかし同時に「ありかな」とも思ったという。

「現状のテストは、教員が生徒を評価しやすくするための仕組みになっていないか?」

 工藤校長がそんな問題提起をするのを以前から聞き、同じような疑問を抱くようになっていたからだ。本来、テストは生徒が「自分の中に学力が定着しているか」を確かめるためにあるもの。しかし定期テストという仕組みには「大人の都合」が多分に含まれていると感じていたという。

定期テストを廃止した効果について語る主幹教諭の関根奈美江氏(撮影:編集部)

「中間テストや期末テストだけで成績評価を固められれば教員にとっては楽だし、生徒にも結果を伝えやすいんです。それは互いにとって良い材料ではあるけど、やり方を『定期』にする必然性はありませんよね。生徒の学力の定着というそもそもの目的を考えれば、別にいつやっても構わないはずです」

 従来の定期テストでは、教員が事前に出題範囲を明示していた。学園もののテレビドラマなどでお決まりのように使われる、授業で教員が「ここ、期末に出るからな」と言っている場面がまさにそれだ。出題範囲を明示しておけば問題を作りやすいし、評価もしやすい。

「でも今はそれをしていません。生徒たちに自律して、自分で学習の習慣を身につけてもらいたいからです。テスト前だけ、一気に集中して良い点を取るためだけに勉強するのではなく、自分で計画を立てて学んでほしいと思っています」

 関根氏が受け持つ理科の場合、3年生では5単元の学びの範囲がある。それぞれが終わるたびに単元テストを実施するが、これだけでは範囲が広いので「小テスト」も設けた。1つの単元の中で3回程度、約10分の小テストを実施する。日々の授業で学んだ内容が自分の中に定着しているかどうか、生徒が実感を持って確認できるようにするためだ。

 ちなみにこの単元テストは、生徒自身の意志で「再挑戦」もできる。納得のいく点数が取れなければ、自己申告して再度受け直すことができるのだ。2回目で点数が上がれば、それが成績に反映される。そのため当初はほとんどの生徒が再テストを志願した。

「それが、1学期が終わる頃には『自分で納得できる点数だったから無理に再テストを受ける必要はない』と話す生徒も出てきました。そもそも再テストを受けるかどうかは本人の選択次第。『せねばならない』ものではないので、自分で納得できる結果だったのであれば教員は何も言いません。その考え方が生徒の間にも浸透してきたのだと思います。

『周りが受けるから自分も受けなきゃ』という同調圧力のようなものもなくなってきました。生徒は徐々に自分で考え、自分で選択するようになってきています」

 年5回の実力テストも同じ目的に向かって設計されている。その名の通り、自分の学力がどれだけ定着しているかを見るものなので、出題範囲は示さない。また、実力テストの結果は成績評価にも算定されない。生徒にとっては、完全に純粋な、自分のためだけのテストなのだ。

「実力テストの結果について、教員はほとんど何も言いません。生徒にとっては誰のせいにもできないテストです。だからこそ、結果を見て『やばい』と思う子はもっと勉強するようになるし、そこそこ良い成績を取っていても満足がいかない子は『もっと頑張ろう』と思うんです」

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