2024年12月23日(月)

家電口論

2018年11月23日

(gyro/Gettyimages)

 家電の中で、炊飯器は特異な位置を占めます。それは「味」という、他人に極めて伝えにくく、数値化しにくい課題を中心に、激烈な競争を未だに繰り広げ、しかも一歩一歩、着実に階段を登っているからです。そして、今年、土鍋でガス火で炊いたご飯と、ほとんど遜色ないレベルにまで仕上がった炊飯器があります。そんな炊飯器、象印マホービンの「炎舞炊き」、タイガー魔法瓶の土鍋IH「炊きたて」、パナソニックの「Wおどり炊き」を検証してみたいと思います。

炊飯って何?

 炊飯を化学的に言うと、お米の中のβデンプン(結晶デンプン)を、水と熱を加え、糊化(こか)し、αデンプンに変えることを言います。βデンプンは糖でできた巨大な分子で、人は消化できません。生米を食べて消化不良になるのは、このためです。逆にαデンプンは、加熱で分子が小さくなり、水分子も取り込まれており消化できます。その上、単離した糖があるので甘みも感じます。

 このため適量の水。そして炊き方(火力)がポイントになります。実は、それに加え、お米表面の状態がポイントになります。いわゆる「米研ぎ(とぎ)」です。しかし、無洗米なども普通化しつつある現在、研ぎはあまり顧みられません。今回は置いておきます。

 火は、直火の熱量に勝るモノはないため、炊飯器は基本「かまど炊き」を目指します。このため、眼を付けられたのが「IH化」と「発熱、保温性のよい内釜」です。そして、水を確実にお米の中に入れ込むための、「圧力」です。

 日本の炊飯器は、「IH」「内釜」「圧力」で、いろいろなアプローチをしてきたのです。

象印マホービン「炎舞炊き」

 昨年まで、象印の炊飯器は、内釜に凝っていました。発熱、保温性に優れた「南部鉄器」を内釜に採用。名付けて「南部鉄器 極め羽釜」。ご飯は美味しいのですが、とにかく重い。3.5合炊きはともかく、5.5合炊きは大人の男でも重く、私も日常使用には向かないとして、推奨できなかったモデルです。

象印「豪炎かまど釜」

 そのため、今回、象印は内釜を変えてきました。こう書くと葛藤がないように聞こえますが、手塩にかけて育ててきた内釜「南部鉄器」と別れるのですよ。一つ間違えれば、ブランドの信用がた落ちです。ユーザーに信用してもらうには、今までより軽い内釜で、美味いお米を炊くしかありません。開発陣の悩みは、相当なモノだったろうと思います。

 そんな時すべきは、ベテランの刑事と同じです。「現場」にお百度を踏むしかありません。かまどで何度も炊き、火を見ながら、吹きこぼれる様子を見ながら、何度となく考えるわけです。そんな時、見えたのが炎のゆらぎだそうです。火の温度は1000℃以上、頑張っても300℃くらいしか上がらないIHとは違います。このため、少しでも当たると、どっと熱が伝わります。

 化学実験で一番最初にすることは、均一化です。しかし、炎のゆらぎは違います。局在であり、ファジーです。局在というのはエネルギーが偏った状態です。エネルギーは均一になろうとする性質があります。熱の動きを生みます。炊飯では、炊きあがるとき、お米が踊るような動きをしますが、それがより複雑になるわけです。最終的には、より均一化しているとも言えます。

 こうしてできたのが、激しい熱の対流を生み出す、「ローテーションIH構造」。通称「炎舞炊き」です。

 これを受け止める内釜ですが、それは進化した羽釜ともいうべきでしょうか。名前は「豪炎かまど釜」です。名前より、ポイントは成分です。なんと、アルミ、ステンレスのクラッド材に鉄を挟み込んで作られています。名付けて「くろがね仕込み」。やはり、象印のこだわりは「鉄」なのです。羽釜のこだわりは、釜のふちが厚いことでわかります。ここで釜から逃げ出そうとする熱を受け止めます。以前より軽い内釜ですが、いい内釜です。

 さて、標準で炊くと、粒状感がしっかり残った中に、甘みが溶け出してくる美味しさがあります。南部鉄器もしっかりとした粒状感と甘みが特長でしたが、「炎舞炊き」の方が甘みが豊かです。食べた瞬間に、ワンランク上がったと感じました。

 デザインは、シンプルながら質感に富んでいるし、洗うのは内釜を入れて3点のみ。スゴく楽でもあります。

 面白いのは、炊飯器を小型にできたことです。極め羽釜の時は、平蜘蛛とはいいませんが、やや平たいお釜を使っていたために、炊飯器の底面を大きくする必要がありました。このため1升炊きにすると大きすぎるので5.5合までしか、商品化していませんでした。しかし、「炎舞炊き」は問題ありません。5.5合、1升炊きがラインナップされています。

 今までの自分を捨て、新しい境地を手にした。それが象印の「炎舞炊き」です。


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