造船やタオルの生産で知られ、古くから瀬戸内海の海上交通の要所で、
江戸時代は水城でもある今治城の城下町として発展した街、今治。
今治は、幕の内と鯛めしでそれぞれ3種類もの品揃えを持つ駅弁が特徴だ。
沿岸に多くの有名駅弁や伝統の駅弁がラインナップする瀬戸内海において、
来島海峡の鯛が透き通るこの駅弁は、土産や催事でも人気を誇る。
愛媛県今治市。瀬戸内海の来島海峡に面した、人口約17万人の港町である。ここはタオルの街であると、学校の社会科で教わった。ここは造船業で栄えたと、本や新聞で知った。ここは城下町であったと、現地で市街や再建天守閣を見て分かった。統計資料を見れば、瀬戸内を代表する海運拠点のひとつであることも分かる。
気が付けば、タオルも近所の店で買えるものは中国製など海外からの輸入品ばかりである。造船もひところの活況は2008(平成20)年秋のリーマン・ショックで消えたと経済誌で読んだ。城が行政機能を持ち地域の中心であったことは、まさに時代が違う昔の話である。海運の重要性は昔も今も変わらないが、国際貨物輸送はシンガポールや釜山、上海など海外の港へ、国内貨物輸送はトラックへ、それぞれ切り替わりつつある。
いまだに愛媛県や四国を代表する都市のひとつではあるが、県庁所在地でもない今治市は、これからの街の発展を考えると少し気がかりである。しかし、少なくとも駅弁は、非常に元気である。今治を含めた四国全体の鉄道が、高速道路の整備等で苦しい状況のなか、ここ今治では駅弁売店のショーケースが賑やかなのである。
幕の内弁当だけで3種類。人気の「鯛めし弁当」も3種類ある。店頭では、カタログへの掲載ではなく実物を陳列して販売されていた。最近10年間に全都道府県で駅弁を購入してきた私だが、同じ駅弁を3つのグレードで売る駅を他に見たことがない。過去には人気の駅弁を並・上・特上で売る駅もいくつか存在したが、今では今治駅が唯一ではないだろうか。
今治の味、瀬戸の寿司といえば、これ
そんな今治駅の駅弁のうち、最も高価であり、かつ例えば宮島口の駅弁と同じく全国駅弁十傑をランキングすればだいたいランクインする駅弁が、「瀬戸の押寿司」である。この名前だけでは、何の駅弁か分からない。パッケージには「活鯛」の文字があるが、容器では「瀬戸の押寿司」の文字が、これを収めるボール紙のパッケージでは「四国今治来島の味」の文字がそれぞれ目立つ。今治の味といえば、瀬戸の寿司といえば、言わなくても分かるではないかと叱られている気分になるし、それだけの自信も私はここで感じる。
さて、いよいよ駅弁の中身を見ていこう。