フレキシブルな制度設計、あくまで国益に沿って調整されるワーホリ制度
日本の国会論議では外国人労働者の受入枠(上限人数)や異常な低賃金と過酷な労働実態に集中している。他方でオーストラリアではワーホリ制度で出稼ぎに来ている外国の若者と受入側の地元の人達の双方の話を聞いた限りでは、ワーホリ制度については肯定的意見ばかりで否定的見解はない。
ワーホリビザでの外国人就労者は法律上明確にオーストラリア国民と同様の権利と保護を受けることが保証されている。雇用者は各種社会保険・健康保険納付や納税義務を負う。従い日本で問題となっているようなブラック職場はワーホリ制度の下ではあり得ない。
ワーホリ制度はオーストラリアでは50年以上の歴史があり、日本と相互協定を締結したのが1980年である。農業分野では恒常的に人手不足であり、政府の毎年の受入枠設定について農業団体は強い影響力を持っている。
初年度のワーホリビザを1年延長する時に「特定分野での最低3カ月の就労実績」が大きな審査項目となっている。農業は常に特定分野のトップだ。さらにクイーンズランドなど北部地域(Norther Territory)や過疎地域の農園や牧場での就労実績はさらに有利に評価される。
現時点では特定分野には林業、漁業、鉱山、土木、建設がリストアップされている。産業界のニーズを反映して毎年調整している。
さらに豪州政府のHPによると2019年からカナダ、アイルランドに対しては年齢上限が35歳となる。早晩他の協定国にも拡大されると見られている。そして2019年から滞在期間も特定分野での6カ月以上の就労実績など条件次第で3年までの延長が可能になる。
より良い人材を効率的に呼び込むために大胆かつ慎重に随時制度設計を調整している。最初から上限枠を巡り紛糾している日本の国会論議が的外れに思える。
大量の途上国出身留学生の相当数は就労目的?
オーストラリアは米国・英国に次ぐ留学大国である。“オーストラリアでは留学ビジネスが一大産業となっている”というシドニーの大学教授の指摘を思い出す。
豪州政府統計によると2017年に学籍登録した外国人留学生は80万人であり、学費を全納した外国人留学生は62万人となっている。62万人のうち大学・大学院は30万人超。専門学校・語学学校は30万人程度だ。
オーストラリアが留学先として人気があるのはアルバイトが比較的自由だからである。学生ビザ保有者は二週間で最大40時間、夏休みなどの長期休暇では無制限の就労が可能である。
留学生は2014年~2017年の4年間で毎年5~10%増加しており近年増加が顕著である。2016年、2017年に学籍登録した国籍別学生数の上位5か国は中国20万人→23万人、インド8万人→9万人、ブラジル3万人→4万人、ネパール2万人→3万人、マレーシア2万人→3万人と各国ともに増加。この上位五か国で過半を占める。
ちなみに語学学校の学籍登録者の上位4カ国は中国、ブラジル、コロンビア、タイとなっている。語学学校・専門学校に在籍する途上国出身者のかなりの人数が就労目的ではないかと思われる。
華僑系スウェーデン女子のワーホリ体験
現地で見聞した中国人のワーホリについては本編第8回(2018年11月4日掲載)、第9回(2018年11月11日掲載)にて一部紹介した。今週・次週では、さらに日本や欧州などの若者のエピソードから、オーストラリアにおけるワーホリの現状を紹介したい。
12月14日。メルボルンのゲストハウスでルームメイトのアジア系スウェーデン女子ジーナ23歳に遭遇。ストレートのロングヘヤ―にスレンダーボディー、エキゾチックな雰囲気だ。
両親は華僑系南ベトナム人。両親は難民申請して40年以上前にスウェーデンに亡命・移住。ちなみに華僑系南ベトナム人はベトナム戦争のサイゴン陥落前後に挙って難民として米国・欧州に亡命している。
ジーナはニューサウスウェルズ州の農園で半年フルーツや野菜の箱詰め作業(packing)に従事。農場仕事(farm job)は一般に炎天下での重労働であるが、屋根付きの作業場での箱詰め作業は比較的軽作業で、しかもウェートレスなどに比べると時給が高いので女子には人気だという。
次回は引き続き各国若者のワーホリの実例とオーストラリアの違法労働者問題を考えてみたい。
⇒次回に続く
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