2024年11月23日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年8月31日

 さらに、先進国では個人所得税が最も重要な税源である。納税すればその使途にも関心が生じ、政治意識も高まるのが人情である。「代表なくして課税なし」という金言が示すところである。ところが、中国は経済規模面で先進国レベルとなったにもかかわらず、むしろ所得税を納税しない人が相当数増加する改革を行ったということには、どういう意味合いがあるのだろうか。

 今回の改革は例外的措置であり、今後、市場経済化をさらに徹底させ、富裕層に固定資産税、相続税を課すなどして、個人所得税が重要な税源になっていく、というようにも考えられる。その先には、個人所得税による政治意識の向上から民主化につながるというシナリオを描くことも可能であろう。

 それとも、個人所得税制の整備はなされず、途上国型の間接税依存のまま、「中国の特色ある道」を進むのだろうか。はたまた、税制だけは先進国流に整備されるものの、さまざまな節税対策により税収増とならず、結果的に「中国の特色ある道」を進むことになるかもしれない。両者いずれにせよ、上記の民主化シナリオからは遠のく、ということになろう。

このように、中国というと、中国共産党一党独裁体制で、一見、強面(こわもて)のイメージも強い。当局は万能かつ無謬であるかのように自己宣伝し、海外では額面通り受け止めがちであるが、現実にはそうしたことはない。われわれは往々にしてイメージと現実のギャップが明らかになるたびに驚き、あきれざるを得ないが、もはや冷笑するだけでは済まされなくなっていることも事実である。

 今後このコラムを通じて、現代中国のさまざまな制度と実態のギャップや、宣伝(公的見解)と歴史的現実との相違を紹介していきたい。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
※8月より、新たに以下の4名の執筆者に加わっていただきました。
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜

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