Wedge REPORT

2019年1月28日

»著者プロフィール

 経済ジャーナリスト磯山友幸氏による、月刊Wedge連載「地域再生のキーワード」では丸4年全国48カ所をめぐってきた。このほど、連載のなかで登場していただいた方々を中心に集合していただき、「未来を創る財団」(國松孝次会長)主催で「地域おこし人(じん)サミット」を開催した。

  今回のテーマは「共感資本主義」。日本ファンドレイジング協会代表理事の鵜尾雅隆さんと、北海道に戦後初めて新たな酒蔵を建てた上川大雪酒造の塚原敏夫さんのプレゼンを中心に、キーマンたちの議論を紹介する。(コーディネーター:イノウエヨシオ氏)

(cifotart/Gettyimages)

キーワードは「市場の見えざる心」

鵜尾 日本ファンドレイジング協会の鵜尾雅隆と申します。これまで私は、「寄付」や「社会的投資」を進めようと取り組んできましたが、日本社会の人口ピラミッドが1980年と2030年でこれだけ変化する中で、「今までと同じやり方できるのか問題」というのひとつのテーマとしてあります。

鵜尾氏(写真・生津勝隆)

 例えば社会保障ひとつとっても、民間資金の活用の仕方とか、いろいろなことを考えていかなければいけないのだろうと思います。

 世界に視野を広げると、ヨーロッパもアメリカも低成長時代で、高齢化しています。中国も一人っ子政策をやってきたので、これから大変な少子高齢化時代を迎えます。進化した社会というのはすべて、低成長下の中で増大する社会的ニーズをどうやって解決していくかというテーマを抱えるのだろうと思います。

 2012年のG8の会合で、「社会的投資」を世界中で進めていく必要があるとはじめて議論されました。その報告書の中で、社会問題解決の投資を‘The Invisible Heart of Markets’(=「市場の見えざる心」)という言葉で表現されました。これが「共感資本主義」を考えるときの一つのキーワードです。

 『国富論』の中でアダム・スミスが書いた「神の見えざる手」をシンプルに言えば、各自が利己的な行動を効率的にやると経済活動が活発化するので、そこで上がる税収を弱者に配分する。この構造をつくることで国が豊かになっていく。アダム・スミスは別の本の中で「それだけでは足りない」とも言ってますが、基本的な『国富論』のパラダイムはそういうことです。

 アダム・スミスが生まれて約300年が経ち、もうひとつの軸がこれからの社会に必要ではないかと議論されています。それが「市場の見えざる心」です。これを簡単に言うと、市場原理による企業の経済活動には競争が存在するので、よいサービスでなければ淘汰される。だから企業はサービスのクオリティを上げていくわけです。では、社会問題の解決は誰がやるのかといえば、これまでは行政でした。そこには競争が存在しない。そこで、社会問題の解決にも競争がある状態を設けることが必要ではないかというのが、この「市場の見えざる心」の考え方です。

 つまり、NPOや行政がやることを、支援する人や投資する人が取捨選択することで、悪いものが淘汰され、いいものが残る、そういう構造をつくっていこうということです。

 その延長線上で、私が注目しているお金の動きを3つご紹介したいと思います。

今後を語るうえで欠かせない「3つの動き」

 1つ目が、「ソーシャル・インパクト・ボンド」です。

 例えばいま、八王子市がやっている糖尿病対策。糖尿病は悪化すると透析が必要になり、透析には年間500万円から1000万円もの医療費がかかり、財政の圧迫要因になります。しかし糖尿病の予防をする予算がないため、十分な予防活動ができていません。

 そこに投資家の力を借りたらどうなるか。まずは出資者が行政に資金を提供します。その資金を使い、行政は糖尿病の予防プログラムを実施します。その結果、利用者が糖尿病にならなかった割合に応じて行政支出が削減できた分を、行政のお金の中から投資家に還元しようというものです。

 今、こうした事業モデルで、全国で4つのプロジェクトが動いています。これから動き出そうとしているものも20個ほどあります。地域の自治体の首長さんの意欲ひとつで始まるケースも多いようです。

 2つ目が「遺贈・寄付」です。野村総研の試算によると日本全体で相続額は40兆円から50兆円あるそうです。このうち一部を寄付してもよいと言っている方が21%います。寄付してもよいという方の多くは、自分の育った地域に恩返ししたいと言っている。しかし、よい寄付先がわからないし、やり方もわからない。だから、実際に寄付している人は0.1%もおりません。

 また、創業者が亡くなり、お子さんが皆東京にいる場合、お金はすべて都市部に行ってしまいま す。地銀にとってこの「相続ぜんぶ東京行っちゃう問題」はかなり悩ましい。これをどう地産地消していくかも重要なテーマです。

 そこで、2016年11月に、中立で安心できる無料の相談窓口として、「全国レガシーギフト協会」をつくりました。全国に16カ所、すでに年間1000件を超える問い合わせをいただいています。

 3つ目が、「ふるさと納税」。最近、課題解決型のふるさと納税がすごく伸びています。例えば、ふるさとで起業する人を応援しようとか、美術館をつくろうとか、子供の貧困を解決しようとか。行政が地域のNPOを指定して選べるようにしたり、地元企業と一緒のコンソーシアムでプロジェクトをつくるなどいろいろな動きが出てきています。

 「共感資本主義」という視点でふるさと納税を見ると、自治体が第二の顧客を持ったという意味があります。第一の顧客は地域住民ですが、第二の顧客として、ふるさと納税を使って県外から応援する人が増えているわけです。

 例えば、ピースウィンズさんが取り組んでいる犬の殺処分ゼロの事業は、広島県の神石高原町という人口約9,400人の町ですが、全国に支援者が約3万人います。その人たちが現場を見に遊びに来るわけです。県外の人も巻き込んで地域を活性化していこうとするマーケティング力のある自治体にとって、ふるさと納税は非常に重要なツールになってきたと言えます。やれている自治体とやれていない自治体の違いは何かというと、ファシリテーション力の差ではないかと考えています。

イノウエ ありがとうございました。「ソーシャル・インパクト・ボンド」、「遺贈・寄付」、そして「ふるさと納税」という10年前にはなかったものが、いまや当たり前になっている。「資源がない、人がいない、予算がない」とつい言ってしまいがちですが、新しいものをうまく取り入れ、「共感」を橋渡しにすることで、その壁をうまく乗り越えている地域もあるということですね。

 それでは、実際に地域の中で新たな取り組みをされている方にお話しいただきたいと思います。

編集部おすすめの関連記事

関連記事

新着記事

»もっと見る