Wedge REPORT

2019年3月6日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 コスコは2009年、49億ユーロを投資してコンテナ第二、第三埠頭の運営権を35~40年にわたって獲得して子会社PCTを設立し、第三埠頭を拡張した。PCTのコンテナ取扱量は2010年の68万5000TEU(20フィートコンテナの単位)から2018年には440万3744TEUと6・4倍に膨れ上がった。また、ピレウス港全体のコンテナ取扱量は2007年から10年間で約3倍に増え、欧州の中で7位のコンテナ港に躍進した。地中海では一番の港湾都市だ。今後PCTは付加価値税(VAT)や関税、物品税のかからない保税地域を設け、最先端のテクノロジーを導入、ストライキのない不眠不休のコンテナ港を目指す。当面の目標は上限の620万TEUだ。

「(コンテナ船世界大手の)2Mやオーシャン3のほか、川崎汽船、商船三井、日本郵船が設立したオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)などとビッグ・アライアンスを組んで、世界の貨物を扱っている」

 PCTのタソス・ヴァンヴァキディス上級商事取締役(61歳)は胸を張った。

 2015年のギリシャ総選挙の際にもPCTを訪れたことがあるが、当時は1100人だった作業員は1900人に増えたという。週3~4本しか運行していなかったコンテナ列車は週16本、そして毎日運行するようになった。ピレウス港からスロバキアのブラチスラバまで5日間だ。コスコは実に中欧行き鉄道運輸の8割をコントロールする。

 中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)だけでなく、米国のHP(ヒューレット・パッカード)や日本のソニーも欧州の玄関港としてピレウス港を選んだという。PCTの張安銘社長(46歳)は「日本の自動車メーカーがチェコやハンガリーで作っている車にも関心がある」と意気込んだ。

ピレウス・コンテナ・ターミナル(PCT)の張安銘社長(右)

 コスコは2016年10月にコンテナ第一埠頭からばら積み貨物ターミナル、クルーズターミナル、自動車ターミナル、ロジスティックエリア、船の修理ドックまで岸壁延長40キロメートルを運営するピレウス港湾局(PPA)の株式51%を2億8050万ユーロで購入した。最大3億ユーロの投資を実行すれば5年後に株式16%を8800万ユーロで買い増すことが認められる。

 ギリシャは中国の「債務の罠」にハメられたのか。というより「コスコは独自のターミナル埠頭を探していた。そこにギリシャの国際入札があり、ビジネスになると決断した。コスコの条件が一番良かった」と張社長は説明する。

 ピレウス港はスエズ運河を抜けて初めて立ち寄る港で、地中海を通じて欧州と中東・アフリカとつながり、黒海に抜けることもできる。債務危機という絶好のチャンスを見逃さず、地政学と戦略性に長(た)けた安い買い物だった。

 ユーロバブルに酔い、自ら「債務の罠」に陥ったギリシャがEUとIMFに財政再建を強いられ、金の卵を産まなくなった鶏のピレウス港を叩き売らされたというのが真相だ。アテネ市民に尋ねると、大半が「窮地に陥ったギリシャに投資して仕事をくれたのは中国だけ」と感謝する。張社長は「我々はウィンウィンの精神を大切にしている。ギリシャの雇用機会を増やす。そしてEUの労働基準にも従う」と強調した。

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