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Wedge REPORT

2019年3月6日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

港湾内部で起きる労働争議

 しかし「中国の言うウィンウィンは中国が二度勝つことを意味する」という皮肉も囁かれる。

 ピレウス港を見学した際に使ったタクシー運転手の友人がコスコで働いているというので携帯電話で実情を聞かせてもらった。その友人は「仕事に不満はない」と言いつつ「コスコについてジャーナリストに話すことはできない」と取材を断った。

 今回改めてPCTを取材したのはコスコが指定してきたからだ。PCTの成功に味を占め、PPAを買収したコスコだが、ピレウス港港湾労働者組合との間で労働争議が続いている。ギオロゴス・ゴゴス総書記がコスコによる組合の切り崩しについて解説する。

 「かつてピレウス港では港湾労働者や運転手、クレーン操縦士、技師、事務職ら数千人が働いていた。2009年に1600人になり、今は1000人だ。ばら積み貨物からコンテナに切り替えられ、港湾産業の技術が進歩したからだ」。PCTが説明する1900人には関連産業も含まれる。

 「PCTが設立された当初、PPAで働く港湾労働者やクレーン操縦士や技師はPCTに移らなかった。このためPCTは下請け業者や代理店を使って非熟練労働者を雇った。安定した正規雇用ではない彼らはきちんとした訓練も受けず、団体交渉権や適正な労働条件、夜勤や休日出勤の特別手当も認められなかった。港湾労働者は本来、月に10~20日間働くことができるが、PCTの労働日数はさらに短縮された」

 そもそも、ギリシャでは日本で言う「旧国鉄」のような公務員の縁故採用がはびこり、労働組合が非常に強い力を持っていた。労働時間を削りながらも、手当を際限なく増やした。そのあげく政府債務残高を国内総生産(GDP)の180%まで膨張させ、財政破綻した。港湾労働者の給与は35%カットされた。

 「PPAの月収は1100~1700ユーロだが、PCTは600~1200ユーロと聞いている。ギリシャの憲法は組合を結成することを労働者の基本的な権利として認めている。PCTは明示こそしないものの、多くの手段を使ってそれを妨害しようとした。2014年の夏、PCT内部から動きがあり、30時間ストライキを打ち、初めて組合が結成された」と言う。

 EUから厳しい財政緊縮策を押し付けられたギリシャは、もはや中国の「トロイの木馬」と化している。

 2015年、ピレウス港に中国人民解放軍の大型揚陸艦「長白山」が寄港し、ギリシャのアレクシス・チプラス首相も馳(は)せ参じた。そして、中国人民解放軍がロシアとともに地中海で初めて海上合同軍事演習を実施した。その後もピレウス港への中国軍艦の寄港は続いている。

2015年、ピレウス港に寄港した中国人民解放軍の大型揚陸艦「長白山」 (NURPHOTO/GETTYIMAGES)

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